ニュージーランド政府による
プレスリリース
2003年10月24日11時18分

翻訳:日本手話学会事務局



「政府、ニュージーランド手話を認知へ」

 政府は、ニュージーランド手話(以下、NZSL)を第三の公用語として認知する意向を表明している。
 今週の閣議で、今年中に議会にNZSL法案を提出することが合意された。
 障害問題担当の大臣であるRuth Dyson氏によれば、この公的認知の目的は、ろう者の言語がNZSLという独自の言語であることを認め、それに音声言語と同じ地位を与えるところにある。Ruth Dyson氏は次のように述べている。
「NZSLを公的に認知するという決断は、ニュージーランドのデフ・コミュニティー(Deaf community*1)にとって大きな前進である。というのも、それは多くのニュージーランドのろう者にとって第一言語であるからである。デフ・コミュニティーとニュージーランドのろう者協会は20年にわたって、自分たちの言語の公的な認知を求めてきた。
 NZSLはろう文化の基盤である。毎日のコミュニケーションや社会参加において不可欠なものである。公的な認知により、NZSLが真の言語であるということがもっと理解されるようになり、ろう者がしばしば出くわす不公平な体験を減らすことになるだろう。ニュージーランドには、NZSLを使う人たちが2万8千人ほどいる。
 NZSL法案が法律となれば、まずすぐに現れる効果として、裁判所を含め、いかなる法的な手続きにおいてもNZSLを使う権利が与えられることになるだろう。
 さらなる発展は少しずつ進んでいくだろう。閣議は、教育、健康、労働、公共の放送などにおいても、さらにはマオリ族のろう者のためにも、NZSLの使用について改善策を探ることに同意している」。

連絡先
Pip Desmond, press secretary, phone (04) 471 9258, 0274 575 894, fax (04)
470 6784, email: pip.desmond@parliament.govt.nz
Victoria Manning, Office for Disabiltiy Issues,
Victoria.Manning001@msd.govt.nz

*1 頭文字を大文字にした「Deaf」は、ろうであると同時に、第一言語、またはもっとも好む言語として手話を用い、デフ・コミュニティーやろう文化に自己同一化する人々からなる、独自の言語的・文化的集団をさすために、国際的に用いられている。彼らの大部分は、先天的に聴覚障害をもつか、もしくは言語習得前の失聴であるが、きこえの程度はさまざまである。



ニュージーランド手話(NZSL)に関するQ&A

なぜ政府はこの法案を提出しようとしているのですか?
もし法案が通ったら、いつごろ施行されるのですか?
法案はろう者とデフ・コミュニティーのために、どのように役立つのですか?
ろう者でない人々への影響はどうですか?
他の国でも手話は公用語なのですか?
NZSLは真の言語ですか?
ニュージーランドではどのくらいの人たちがNZSLを使用しているのですか?
手話は世界共通ですか?
ろう文化とは何ですか?
法案はニュージーランドの公用語として英語、マオリ語の地位に、どのように影響するでしょうか?
今後、点字や他の言語は公的な地位を与えられるのでしょうか?




なぜ政府はこの法案を提出しようとしているのですか?
 ニュージーランドのろう者たちとの協議で、NZSLの地位と、現在の法律の下で受けられる政府のサービスへのアクセスの双方に、重大な問題があることが明らかになりました。
 NZSLが音声言語と同様に真の言語であるということはほとんど理解されておらず、結果的に数々の不公正が生じています。たとえば、ろう者たちの報告によると、法廷で通訳の使用が拒否されたり、NZSLの使用が攻撃的なふるまいと誤解されて、治安紊乱の罪に問われたりしたこともあります。また、医療的な場面では、適切なNZSL通訳者なしでは、誤診の危険性が大変高く、インフォームド・コンセントがなされない可能性も高いのです。
 労働党のマニフェスト(1999)では、労働党は「NZSLを公用語として認知する」としています。ニュージーランドろう者連盟など、デフ・コミュニティーは自分たちの母語としての公的な承認を20年間にわたって求め続けてきました。


もし法案が通ったら、いつごろ施行されるのですか?
 まず法案は2003年12月に下院に提出され、その後、特別委員会で審議されます。この特別委員会の手続きを考慮に入れ、政府は2005年の1月1日施行を目指して法案に取り組みます。


法案はろう者とデフ・コミュニティーのために、どのように役立つのですか?
 彼らの独自の言語であるNZSLが音声言語と同等の地位を与えられ、司法へのアクセスがさらに保証されることによって、この法案はニュージーランドのろう者に利益をもたらすはずです。マオリ族のろう者によれば、NZSLの公的な認知は、フイhui(会議)やマラエmarae(集会所行事)やタンギ(tangi)における手話使用の可能性を拡大し、ワカパパwhakapapa(ニュージーランド北部の村)など、マオリ語やマオリ文化への参加を拡大することになるとのことです。


ろう者でない人々への影響はどうですか?
 ろうの子どもをもつ親たちは、子どもたちの第一言語が認められることによって利益を得るでしょう(95%のろうの子供が聴者の親のもとに生まれます)。家族にろう者をもつ聴者も、家庭や地域コミュニティーでろう者たちがいっしょに参加できることによって利益を得るでしょう。
 ろう者がさらなる社会参加、社会貢献をすることによって、ニュージーランドの社会全体が利益を得ることになるでしょう。また、彼らの独自の言語をはじめ、ろう文化の真価が認められることによって、社会はさらに利益を得ることでしょう。なお、この法案は、私的な活動に特定の義務を課すものではありません。


他の国でも手話は公用語なのですか?
 ヨーロッパ議会では手話の認知を求める決議がなされており、加盟国のうち、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スイス、アイルランド、ポルトガル、ギリシャが手話を認知しています。また、カナダとアメリカのいくつかの州で、手話は公的に認知されています。


NZSLは真の言語ですか?
 はい。英語やマオリ語とは異なる独自の文法的構造をもった完全なる視覚言語です。NZSLはジェスチャーやマイムといった、その場で一時的に作られる動作の連続ではありません。他のすべての人間言語と同様に、完全に考えを伝え合うことができ、広範囲にわたる機能を果たすものです。完全な視覚言語であるNZSLが、ろう者にとっては一番理解しやすい言語なのです。


ニュージーランドではどのくらいの人たちがNZSLを使用しているのですか?
 調査によると、NZSLは2万8千人のニュージーランド人によって使用されています(ろう者と聴者の両方を含めて)。そして、21万人のろう、および聴覚障害をもつ人々がいます。


手話は世界共通ですか?
 いいえ。手話は世界共通ではありません。NZSLはニュージーランドに固有の言語であり、世界の他の地域では使われていません。NZSLはマオリ文化の概念を表す手話単語を含むという点で独特です。そしてマオリ族のろう者はたいてい、デフ・コミュニティーに属しているという意識をもっています。


ろう文化とは何ですか?
 NZSLはろう文化の中心となるものです。頭文字を大文字にした「デフ(Deaf)」という言葉は、ろうであると同時に、第一言語、またはもっとも好む言語として手話を用い、デフ・コミュニティーやろう文化に自己同一化する人々からなる、独自の言語的・文化的集団をさすために用いられます。ろう文化は、他のすべての文化と同様、ろう者の習慣、独自のマナー、芸術、ユーモア、歴史などの豊かな集合体です。ニュージーランドのデフ・コミュニティーはデフ・クラブや、年に一度のスポーツ大会、会議、ワークショップ、その他さまざまな社会的な集まりに定期的に集う、活気に満ちたコミュニティーなのです。


法案はニュージーランドの公用語として英語、マオリ語の地位に、どのように影響するでしょうか?
 ニュージーランドには2つの公用語があります。英語とマオリ語です。これらの言語の地位はNZSL法案によって影響を受けるものではありません。
 マオリ族のろう者によれば、NZSLの公的な認知は、フイhui(会議)やマラエmarae(集会所行事)やタンギ(tangi)における手話使用の可能性を拡大し、ワカパパwhakapapa(ニュージーランド北部の村)など、マオリ語やマオリ文化への参加を拡大することになるとのことです。


今後、点字や他の言語は公的な地位を与えられるのでしょうか?
 いいえ。点字はコード化された英語であり、異なる言語ではありません。NZSLは独自の文法構造をもち、英語、マオリ語とは異なる言語の規則をもつ、まぎれもないひとつの言語なのです。
 ニュージーランドでは他にも多くの言語が話されています。それらの言語は、母国や本国において法的な地位を持っているという点で共通しています。NZSLの公的な認知は、それらの言語が母国での認知を通じてもつ地位と同等の言語的地位を与えるものなのです。























も ど る


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