「全国ろう児をもつ親の会」の目的は
(1)ろう学校における教育言語として日本手話を認知・承認させること
(2)ろう者の教員を各ろう学校に配置させること
(3)聴者教員に日本手話を定期的、継続的に研修させること・・・

つまり【バイリンガル教育】の推進です。

このコーナーでは【ろう児のためのバイリンガル教育】について
いろいろな角度から一緒に学んでいきたいと思っています。
「バイリンガル教育」について親であるひとりひとりがしっかりと理解し、
何が必要なのかを考え、それぞれの場にあって少しずつでも
改善を求めていきましょう。

2001/02/22 「聾教育におけるバイリンガル教育の動向」

          〜スウェーデンを中心に〜

  1.スウェーデンの聴覚障害教育
  2.バイリンガル教育への移行とその要因
     (1) Brita Bergman氏の研究
     (2) Inger Ahlgren氏のプロジェクト
     バイリンガル教育決議に至った社会的要因
     (1) スウェーデン自体がバイリンガルの状況であること
     (2) 政府が「家庭言語」力の維持を支援していること
  3.バイリンガル教育の実践
     (1) 幼稚園就学前
     (2) 幼稚園時代
     (3) 教科教育
     (4) スウェーデン語の読み書き教育
     (5) スウェーデン手話教育
     (6) 口話訓練
     (7) 教師の手話学習

1. スウェーデンの聴覚障害教育


 スウェーデンで聴覚障害者に教育をする試みが初めてなされたのは、19世紀初頭である。 Per Aron Borgが中心人物であり、スウェーデンにおける聴覚障害教育の創始者であるとみなされている。Borgは生徒が使っていた手話を取り入れ、生徒を指導する際に用いた。Borgの著書「ド・レペの生涯(The Life of de l'Epee)」の中で、彼は手話について次のように述べている。「・・・・その言語、より正確にいえば、世の中に聾者が存在する限り消え去ることのない言語の土台というもの、たとえ彼らが書きことば、話しことばに堪能であったとしても決して手放すことのない自然な言語、つまりそれは自然な手話のことである。」Borgは手話が聾児の唯一の自然な言語であることを認めており、生徒とのコミュニケーションに用いるだけでなく、手話自体の指導も行っていた。

 このようにスウェーデンでは聴覚障害教育の初期から聾者の手話を彼らの言語として認めていたが、19世紀後半に口話法が普及し、聾学校から手話を排除するようになった。しかし、口話法の成果は期待したほどにあがらず、1960年代中期になって手話に対する否定的態度が軟化し、教師は授業をわかりやすくするために時々ひそかにスウェーデン語をサポートして手話を使うようになった。

 1960年代末にアメリカで台頭し、急速に普及していったトータル・コミュニケーションは、スウェーデンでも積極的に受け入れられた。スウェーデン聾協会(SDR)は手話が聾学校のすべての段階に導入されるよう働きかけていたが、聾学校は手話の使用が発語を妨げること、スウェーデン語の話しことばや書きことばに悪影響を及ぼすことを危惧し、幼小段階への手話導入には反対であった。スウェーデン聾協会は1970年に手話委員会(sign-language committee)を設立し、スウェーデン語を視覚的に表現する手指コードとして、手指スウェーデン語(Signed Swedish)をつくりだした。一つのスウェーデン語に必ず一つの手話を対応させ、スウェーデン語の語順に従って使えるようにした。委員会は、聾教育の場で手指スウェーデン語が口話と結び付いて使われることによって、聾児のスウェーデン語獲得を容易にさせるだろう、また読唇と発語の発達も促進されるだろうと期待した。聾学校はこの手指スウェーデン語を全面的に受け入れ、聾児の唯一の手指コミュニケーションとして用いた。また、聴者の親にとっても手指スウェーデン語は比較的習得しやすく、子どもとのコミュニケーションに用いた。当時の「総合制義務教育学校、特殊学校部全国教育要領(National Syllabus for the Compulsory Comprehensive School,Special School Section)」に、手話は「発語と同時に用いられてのみ認められる。」と記されているように、手指スウェーデン語は口話と同時併用で用いられた。このようなコミュニケーション方法を同時法(simultaneous method)あるいは併用法(combined method)というが、この方法は長くは続かなかった。10数年のうちにバイリンガル教育への移行が生じたからである。


2. バイリンガル教育への移行とその要因


 1981年、スウェーデン聴覚障害教育史上で革新的なことが起こった。それは、政府が聾教育の場でスウェーデン手話の使用を勧告する決議を行ったことである。そして1983年にはバイリンガル教育の新カリキュラムが施行された。聾児は第一言語としてスウェーデン手話による教育を受けるべきであり、第二言語としてスウェーデン語を学習することが要求された。

 聴覚障害教育において常に問題になるのは、いかに聾児にその国の音声言語を獲得させるかということである。今日ではトータル・コミュニケーションの影響下で、音声言語に対応した手指方式と口話とを同時に併用することによって、聾児の音声言語獲得を促そうとする試みが世界各国でなされている。

 しかし、スウェーデンでは同時法による教育が10数年にもならないうちに、バイリンガル教育が聾教育の国策となった。このようなバイリンガル教育への急速な移行をもたらした要因は何であろうか。その要因として、二人の言語学者がそれぞれ行った、次のことが考えられる。

  1. Brita Bergmanの研究によって、手指スウェーデン語によるスウェーデン語獲得の可能性が否定されたこと。聾者が自然に使っている手話(スウェーデン手話、Swedish Sign Language)が、独自の文法構造をもった言語であることが示されたこと。

 Bergmanは今日のスウェーデンの手話言語学の祖として知られているが、1973年にスウェーデン教育委員会から手指スウェーデン語の研究を依頼されたときは、手話に関する知識が全くなかった。手指スウェーデン語、そしてスウェーデン手話を研究し、1977年に 「Signed Swedish」、1978年に「Current Development in Sign Language in Swedish」という報告書を出した。前者では手指スウェーデン語の言語学的性質を解説し、後者では手指スウェーデン語とスウェーデン手話の2種類の手話について述べている。

 Bergmanはこの報告書の中で、手指スウェーデン語によるスウェーデン語習得について次のような否定的見解を出している。「手指スウェーデン語は視覚的に受容される唇の動きと手話から成り立っている。したがって、聾児は手話の形とそれに付随している意味概念を習得することができるし、大人が手話に合わせて使っているのと同じ唇の動きを使うこともできるかもしれない。しかし、このことは、聾児が単語の組成を本当に理解しているという意味ではない。コミュニケーションに手指スウェーデン語をただ使うだけでは、スウェーデン語を自動的に獲得できない。聾児の手話がスウェーデン語の語順に従っている文章を産出したとしても、やはり各々の単語の組成は別に教える必要がある。」手指スウェーデン語から得られる言語的情報が非常に不十分であるため(読唇の不完全さなど)、聾児は「読み」を習うまではスウェーデン語を習得できないと主張した。彼女はこのことを多くに人々に理解してもらうために、何年かにわたって何度も講演を行った。講演のたびに聴衆(聾者、聴者を問わず)を交えた実演−無意味に並べた口話単語と、聴衆が知っている手話単語を組み合わせたものを聴衆に読話させる−を試みた。聴衆の多くがかなり上手に読話できても、文字で示されるまではたいてい口話単語の理解に失敗した。口話単語に文字がつくと、よりはっきりと理解できた。Bergmanのこのような積極的な情報提供のおかげで、多くの人々は手指スウェーデン語のもつ問題点をいち早く知ることができた。そして、手指スウェーデン語でも思考を伝えることはできるが、幼児はスウェーデン語の文法的知識があることを証明する、文(手話または文字の)による応答ができないことに気づきはじめた。

 また、Bergmanはスウェーデン手話も研究し、スウェーデン手話が独自の文法構造を有する言語であることを示した。手指スウェーデン語とスウェーデン手話の違いに対する理解が急速に広がり、教師は、今まで教室で使っていたのは聾者が使う手話とは全く別のものであってスウェーデン語の語順に手話を(きちんとではなく)おおまかに並べたものであること、そしてほとんどの聾児はスウェーデン語をマスターしていないために、教師の手指スウェーデン語を理解しようがなく、したがって手指スウェーデン語によるスウェーデン語習得を期待することはできないということを知ったのである。

 Bergmanは先の報告書でバイリンガル教育の提案をしている。「・・・・スウェーデン手話は、スウェーデン語を学ぶ上でプラスの影響を与えると信じる、十分な理由がある。なぜならば、聾児は、手話を通じてある程度の概念形成と言語発達を達成し、新しい知識を、手話を通じて獲得することができるからである。・・・・聾児たちが手話という言語で意思を伝達・受容する能力を、教育と言語の学習の基礎として活用してもいい時期にもうきているといっていいと思われる。」

  1. Inger Ahlgrenが行ったプロジェクトにより、聾児の第一言語獲得に対する視点が転換されたこと。

 Ahlgrenもまた、1975年にスウェーデン教育委員会から、手指スウェーデン語が聾児のスウェーデン語習得を促進しているかどうかの研究を依頼された。Ahlgrenは親子とも聾の家庭(デフファミリー)二組と、子どもが聾、親が聴者で手指化スウェーデン語を習っている家庭二組をビデオにとり始めたが、彼女は後にこの研究について次のように述べた。「この比較は明確な理由から無理だということがすぐにわかった。まず第一に言語はほんの小さな問題にすぎず、家庭状況がすべての面で異なっていることを確信した。さらに重要であるが、総合的に感じたのはデフファミリーは正常な親子関係をもつ正常な家庭だということであった。両親は子どもの将来についてよく知っていたし、子どもの可能性についても自信をもち、両親はお互いに、また友人とも手話を使っていた。そして子どもも完全に正常にみえた。しかし、聴者の親の家庭では、まったく不安な状態になっており、それが全てを支配していた。・・・・家庭共通の言語が子どもも両親もほとんどマスターしていなかった。」そこでAhlgrenは両方の家庭の比較をやめ、デフファミリーの持つ多くの知識を聴者の親の家庭に伝えたいと考えて次のようなプロジェクトを行った。聴者の親のために聾の先生による手話コースをつくり、1976年から77年にかけて毎週土曜の会合と毎年一週間の合宿を行った。この結果、聴者の親のコミュニケーション能力は上達し、子どもと楽にコミュニケーションできるようになった。

 さらに、聴者の親と聾児が、手話を使う聾児あるいは成人聾者と交流したことにより、子どもの第一言語に対する見方と聴者の親のあり方に対する見方が大きく変わった。Ahlgrenのプロジェクトが終了した後も、子どもたちは小学校入学までの間、毎週土曜に集まって一緒に遊んだが、国家教育委員会への報告(1982)の中でAhlgrenはこう述べている。「この子どもたちの遊ぶようすを収めたビデオテープを何も知らない多くの聾者に見せ、3〜4歳の聾児について手話力と自信の深さを基準に、どの子がデフファミリーの子どもかを識別してもらった。しかし普通にみられる発達レベルの違いは顕著でなく、どの聾者もなかなか識別できなかった。」この結果から、聾児は手話を使う聾児や成人聾者と一緒にいるだけで、第一言語(スウェーデン手話)をごく自然に獲得することがわかった。両親が子どもの言葉の見本になる必要はないのだ、ということは聴者の親にとって慰めになったのである。聾児のことは聾者がよく知っていること、それに加え、聴者の親も親としての役割−子どもの第一言語のモデルになれないとしても、生活における主なコミュニケーション相手であり、人生や愛やマナーやスェーデン語の知識などを与える−を等しく受け持つことができるということを学んだ。プロジェクトに参加した聴者の親と、聾者の親のほとんどは、その後も親の会(DHB)やスウェーデン聾協会と活動しあって、他の聾児とその両親が、聾児や成人聾者と交流することの利点を自分たちと同じように享受できるよう働きかけた。


 BergmanとAhlgrenの働きは、手指スウェーデン語が聾児のスウェーデン語獲得に最適ではない、手話を使う聾児や成人聾者との接触は、聾児の手話獲得を自然にもたらす 、という認識をスウェーデンの聾教育関係者の間に広めさせたが、それではスウェーデン語をどう習得させればいいのか、という問題に直面する。聾児が自然に獲得できる言語がスウェーデン手話ならば、スウェーデン手話を聾児の第一言語にし、第二言語としてスウェーデン語を教えればよいというバイリンガル教育が提案され、1981年の政府のバイリンガル教育決議につながっていったのだろう。このバイリンガル教育決議において、さらに2つの社会的要因として次の点をあげたい。

  1. スウェーデン自体がバイリンガルの状況であること。
 スウェーデンでは、スウェーデン語以外にもう一つ外国語(特に英語)を話せることが当然のようになっている。なぜなら、スウェーデン語では外国のテレビ番組が多く、どの番組もスウェーデン語の字幕をつけて音声(英語)をそのまま流すため、スウェーデンの人々は小さい時からテレビでスウェーデン語と生の英語を聞いており、英語が話せるようになっている。ほかにも、60歳以上の人々は戦前教育のために英語ではなく、ドイツ語が話せるし、外国から来た移民は母国語を話しているし、スウェーデン全体が様々な言語のバイリンガル状態になっているのである。したがって、聾者の第一言語をスウェーデン手話にするという考えが、人々に受け入れやすかったのであろう。

  1. 政府が「家庭言語」力の維持を支援していること。
 1965年頃から多くの移民がスウェーデンに移ってくるようになった時、政府は移民の子どもたちが母国語とスウェーデン語の2つの言語を維持することは、国にとって結局は有利になると判断し、移民の子女に対して「家庭言語」力の維持の支援を命令した。すべての移民子女は両親の言語がスウェーデン語以外の言語ならば、週に1時間40分の教育を受ける権利があるということを法律で制定した。

この法律は、社会においても移民の家庭においても、少数言語に対する認識に好影響を与えた。周囲の人々は移民の言語を尊重し、移民の親子も自分たちの使う言語に劣等感をもつことなく安定したコミュニケーションができる。手話に対する人々の姿勢にも影響した。デフファミリーの言語は大切になされ、聴者の親をもつ聾児は、家庭の言語に接する方法がないため、親が子どもの言語を学ぼうとするようになった。

 このように、スウェーデンがバイリンガル状況であり、手話を含む少数言語を積極的に尊重するという社会的政治的環境がバイリンガル教育移行に大きな影響を及ぼしたといえる。


も ど る


3. バイリンガル教育の実践


 バイリンガル教育の実践について述べるにあたり、幼稚園就学前、幼稚園時代、聾学校における教科教育、スウェーデン語の読み書き教育、スウェーデン手話教育、口話訓練、教師の手話学習、の七項目に分けて述べたい。
  1. 幼稚園就学前
 聴者の親の家庭に聾の子どもが生まれた場合、両親は医療専門家、ソーシャル・ワーカー、聾児指導のホームティーチャー、親の会などから情報と様々な支援を受ける。両親はスウェーデン手話が聾児の第一言語だということを受け入れなければならないと聞かされる。両親がこのことを認めると、聾児はスウェーデン手話を獲得するために、手話を使う聾児と一緒に遊んだり成人聾者の世話を受けたりする。両親も手話を身につけるために、成人聾者と交流するほか、幼児期のホームティーチャーによる家庭内指導、親の会が提供する週末集中手話コース、レクサンド市の成人教育センターあるいは聾クラブでの一〜二週間コース、ストックホルム大学の一学期コースなどに参加し、また、これらのコースに出るための時間的金銭的援助を受ける。スウェーデン聾協会も地域の聾クラブに対し、聾児の将来に対する責任や、聴者の親のために手話クラスを開いたり家族単位で活動したりする責任を明確にしているという。

  1. 幼稚園時代
 聾児の第一言語獲得のためには特に教育は必要なく、手話を使う聾児や成人聾者との交流のみでよいという基本的前提に従い、幼稚園での中心は言語発達ではなく、遊びとより豊かな経験をさせることである。また、成人聾者の関与を非常に重要に考えている。ストックホルムのある幼稚園はすべて聾児で、デフクラブに隣接しており、聾の教師を高い比率で雇っている。同地区のほかの七つの幼稚園は、聾児、難聴児、聴児が一緒かまたは同じ学校内で分離されている。そしてどこにも最低一人は聾の教師がおり、スウェーデン国内のあらゆる地域において、聾児のために特別に訓練された幼稚園教諭のパートタイムによる支援を受けられるようにしている。

  1. 教科教育
 スウェーデンのバイリンガル教育の目標の一つは、子どもたちがスウェーデン語ができない理由だけで情報に飢えることがないようにすることである。したがって、カリキュラムの目標はほとんどの科目で最初から学年相応の教科書を用いることであり、教師たちが教科書をスウェーデン手話に翻訳して教えることにより、可能になっている。
  1. スウェーデン語の読み書き教育
 スウェーデン語の語彙や文法を導入するとき、子どものスウェーデン手話の知識をたよりにして教えることが多い。教師が教材をスウェーデン手話に翻訳し、スウェーデン語の書き言葉が子どもの言葉の中の似たような概念のものといかに対応しているかを示す。聴児の一年生向けの読書の教科書はスウェーデン語の知識を前提とし、書き言葉を教えることを目標としているため、聾児には適切でないと考えられている。言葉の単純な繰り返しが多く、ストーリーが退屈だからである。

 ストックホルムのマニラ聾学校でスウェーデン語教育のベテランであるとされている教師は、昔話をスウェーデン手話に翻訳したビデオから始めた。まず、お話またはお話の一部を見て、内容を理解してから、子どもたちが使っているスウェーデン手話のいろいろな側面を発見させる。たとえばどのような眉の動きが疑問文になるか、どのような身体姿勢が直接引用になるかなどである。翌日は同じところをスウェーデン語の書き言葉で示し、スウェーデン手話と比較しながらスウェーデン語を学んでいく。たとえばスウェーデン語三語が一手話に対応するとか、その逆を子どもに発見させる。

 この教師の話によると、最初の二年間はこの方法で本を毎週変えながら教えていったが、三年生にはもう十分に読めるようになり、三年生からはビデオをやめて普通の本を用いたが、子どもたちはスウェーデン語からスウェーデン手話に翻訳することができ、四年生の終わりには自分で読めるようになった、という。また、子どもがスウェーデン語の文法を十分に知り、二つの言語の違いを理解してから、初めて「書く」ための道具をもつことになると考えているので、二、三年生になるまでは子どもに「書く」ことを強要しないという。

  1. スウェーデン手話教育
 幼稚園時代にスウェーデン手話を獲得し、聾学校に進学してからもスウェーデン手話の学習は続けられる。最低週一回、手話が学科として教えられ、文法だけでなく発表力に力をいれている。

 (3)と(4)で述べたようにスウェーデン手話は、スウェーデン語を学習するときの比較の足がかりになり、またすべての教科に関して情報を得たり頭の中で整理したりする基盤であるため、手話能力が大変重要である。また、手話能力は子どもの心理にも影響を与えている。聾学校に入ってくる子どもの中には、手話を完全に獲得していない子どもや、全く初めて手話に接する移民子女などがいる。ストックホルムのマニラ聾学校の教師の話によると、子どもは手話や友だちとのコミュニケーションが楽しくて気楽でないと、教科やスウェーデン語の学習に身が入らなくなるそうである。何人かの教師は子どものいろいろな活動や発表を定期的にビデオにとって子どもの手話能力を観察し、伸ばさなければならない部分があったら指導しているという。

  1. 口話訓練
 聾児がスウェーデン手話を学んでいる最中であったり、バイリンガル教育がまだこれからの状態の時は、口話訓練を強要しない。しかし、口話訓練の教師の話によると、幼児は口話に対して大変好奇心が強く熱心だが、9〜12歳頃に興味が低くなる時期がある。そして青春期になるとまた以前よりいっそう求めるようになる。特に女子に多く、実生活におけるショッピング、バスに乗る、聴者の男子との会合などで役に立つ口話使用の必要性を認識するという。

 口話主義が終わった後、口話訓練への否定的な感情が大き過ぎて、今日では熟練した口話訓練者がほとんどいなくなってしまった。しかし、口話の素質をもつ子どもや口話を身に付けたいと望む子供のために、必要な訓練を受けられるようにするべきだという人が増え、マニラ聾学校では六人の発話訓練の教師のうち、三人は不足を補うため、退職者を再雇用している。スウェーデンの著名な口話研究者の研究報告が再び取り出されるようになった。またスウェーデン聾協会でも、長年努力して作り上げた手話環境にいかに効率的に発話訓練を融合させていけるかという問題を研究することを今後の課題として掲げた。

 聾者にとって発話とは実際どんな意味があるか、どのように発話を用いているか、発話訓練中どのように感じたか、生活で役に立つ必要語など、聾の専門家の集会や学校などで議論されている。また、発話の時間に聾児を指導する聾の専門家をもっと養成して、いつ発話を使うか、いつ使ってはいけないか、どうやってその音を学んだかなどの疑問に対するアドバイスが出来るようにすべきだという声も多い。しかし、人が聞き取れるような発音を習得するには長くて辛い訓練が必要であるという問題については解決法がまだ見つかっていない。

 バイリンガル教育になって、新たに口話が見直されているが、口話訓練の教師でさえも、聾児にはスウェーデン手話が必要だということを完全に確信している。なぜならば、今日の聾児は、口話時代の聾児に比べてはるかにコミュニケーションの力があり、意味のある豊かな話をするようになったからだという。

  1. 教師の手話学習
 バイリンガル教育が施行されてまだ10数年であるため、現在のクラスで実際に使われているコミュニケーション・モードにはまだまだ大きな差がある。厳密な口話法を除いて、ほぼあらゆる方法が見られるといわれる。しかし、聾児とのコミュニケーションに十分通用する手話力をもった教師は多い。

 1980年始めのバイリンガル教育への急速な移行は、聴者の教師に混乱をもたらし、多くが学校を離れていった。当初は守勢であった教師も、現在は聾児の第一言語がスウェーデン手話であることを確信し、自分の手話が少しでもスウェーデン手話に近づくように励むことの正当性を疑うことはなくなった。

 どの学校にも教師のための勤務中の手話訓練があり、デフクラブでの二週間コースに通った教師も多くいる。さらに、スウェーデン聾連盟と父母会は教師の手話力向上のため、1)聾学校教員養成プログラムに入る者は、まず厳格な手話テストに合格しなければならない、2)すでに教員である者のためにストックホルム大学に一学期の手話プログラムを設置し、ここで手話を学習する、を政府に要求し、最近、実行された。






























も ど る

※無断転載禁止 Copyright(c)2000-2003 全国ろう児をもつ親の会