勝手にアルバム紹介



岡村靖幸
「早熟」 〜君はそのジャケットに耐えられるか〜







このアルバムは、岡村ちゃんの初期〜中前期のベストアルバムである。
1st「Yellow」, 2nd「DATE」, 3rd「靖幸」までのアルバム曲と、アルバム未収録のシングル曲で構成されている。
従って、最強傑作「家庭教師」の曲は収録されていないのだが、それでもかなりのクォリティであることは保障できるし、第一、岡村サウンドの核心に触れるには持ってこいのアルバムである。


しかし。



しかーし!



CD屋さんでこの「早熟」を手にするとき、あなたは必ずや躊躇するであろう。
なぜなら、



ジャケットがアレなのだ!



視覚的に、すんごいインパクトのジャケットなのだ。
もう、アレとしか形容しようがない。
実際、ボクは今でもその表ジャケットを直視することができない。
10秒、いや5秒ぐらいが限界である。
そして、ジャケットを裏返すとさらに直視できないビジュアルが展開されるのだが、
表裏合わせて、どうアレなのか説明を試みてみよう。


まずは、ジャケット表面である。
背景は、何と言うかその、いっちゃってる感じの薄いグリーンである。
そして中央に、花柄のジャケットに大きな白い丸襟(ちょっと宣教師っぽい)の服を着た岡村ちゃんが、首をかしげ気味にいっちゃってる目で上目使いにこっちを見ている!のだ。見る者は、この危ない視線に思わず、顔を背けてしまう。

うわっ!

という感じである。


驚いて思わずジャケットを裏返すと、今度は、ドアップでカメラ目線の岡村ちゃんの横向きの顔とご対面である。しかも、何故か裸の上半身に十字架のネックレス!

おわわわっ!

と驚いて表返すと、再び最初のあの危ない視線に晒される。
エンドレスになる前に何かで覆い隠すなりして難を逃れねばならない。


というわけで、この「早熟」のジャケットは、かなりアレなのである。
さらに、CD屋のレジに持っていくのにもかなりの勇気がいる。
こんなアレなジャケットのCDを買う客を、店員はどう思うだろう?
女性客なら、「かなりのナルシー好き」「趣味わる〜。」と店員に思われる可能性大だが、まだダメージは少ない方である。
しかし、男性客の場合はそうはいかない。
ホモっ気があると誤解されるのではと、気が気でなくなるはずである。
かく言うボクも、この「早熟」を買うときには、難渋を強いられた。
おっかなびっくりの胸中を隠して、何食わぬ顔でレジへジャケットを持って行ったのだが、レジを打って袋に入れる間、員がずっとうつむきっ放しなのである。



怪しい。



ボクには、この店員が何か気を使っているような気がしてならなかった。
まるで、エロ本を買いに来た客を気づかう本屋の店員のようである。
逆に、時々チラっとこっちを見られたりしても嫌なのだが、いずれにせよ、何とも言えない緊張感を味わうハメになるのである。

とにかく、このアレなジャケットの洗礼を受けられるかどうかが、岡村ワールドへ入るための踏み絵になると、ボクは個人的に思っている。(自分が踏んだから)
だから、Amazon.comのネット通販で入手するのは禁じ手である


そんなジャケットからしてアレな「早熟」だが、肝心の中身の曲の方も、ジャケットに恥じないアレな濃密さに満ちている。濃密ゆえに、人によって印象の持ち方は非常に多様になるかと思うが、ボクの独断と偏見を持って簡単な曲紹介をしてみよう。(全13曲)



1.「Peach Time」
短いながらも突然の「なんじゃこりゃ!」なイントロに、度肝を抜かれた曲である。
詞のテーマは、ずばり「ナンパ」。だと思う。「今晩ビビッとナンパをしようぜ」という歌詞もあることだし。そして、早くも1曲目にして奇想天外な歌詞のオンパレード。Bメロでは「安心させるには姉貴が言うにゃ食事はニューオリンズ」。そしてサビでは「なんでぼくらが生まれたのか ぜったいきっと女の子なら知ってる」という、よく考えるとエロいような気もするフレーズ。1コーラス目と2コーラス目の間のセリフでは、変態性の片鱗も見えて、なかなか美味しい曲。最後の方では「カモンおっさんベイベー!」と聴こえるフレーズもある。


2.「Dog Days」
とっても爽やかなイントロ。っていうか、サウンドは最後まで爽やか。アコースティックギターストロークはとても軽快だが、音をたくさん重ねていてサウンドは分厚い。ポップスという意味では王道的とも言える、まとまった佳作。
「Dog Days」は、「盛夏」という意味。さり気なくこんな慣用句をタイトルにするところが岡村ちゃんらしい。曲間で「ママママハーハーハハァーィ」としつこく歌うのが印象的。詞の大意は「あいつより僕の方がお前を愛してるから僕に乗り換えて」って感じだろうか。どうも、ナンパに失敗したことを爽やかに歌っているような印象を受ける。


3.「Lion Heart (Hollywood Version)」
やりすぎなぐらい大袈裟なオーケストラアレンジ。そのあたりが「ハリウッド」バージョンたる所以なのだろう。まさか、ハリウッドでレコーディングしたわけではあるまい。曲自体は、個人的に、岡村ちゃんのバラードの中でも秀逸な方だと思う。サビの「猛獣のようなハートであのとき激しく抱きしめてたなら」という所は、情感たっぷりな聴きドコロ。そして、この曲でも冴えるヘンなフレーズ「実はさあ この僕もあの日から 傘さえも開けない・・・・・・。だからどうした!とつっこみたくなるが、それもまた魅力。


4.「だいすき」
車のCMに使われた、岡村ちゃんの数少ないタイアップ曲の一つ。そして、岡村ちゃんの爽やかラブソングの代表とも言えそうな曲。子供のコーラスが印象的。詞からもかなりポップなセンスを感じる。「君が大好き 甘いチョコよりも」と堂々と歌うところには、返って男気さえ感じる。「女の子のために今日は歌うよ」という締めのフレーズも凄い。っていうか、ボク的には軽いカルチャーショックだった。こんなことを真面目に自主性を持って歌える男性アーティストがいたことに、驚いた。そして、何と言っても気になるのが、最後の子供コーラスとの掛け合い。「へぽたいや」にしか聴こえないのだが、英語なのか何語なのかよくわからない。とにかく、一度聴いたら忘れられないのが「へぽたいや」。


5.「Out of Blue」
岡村ちゃんのデビューシングル。さすがに80年代テイスト。夜のヒットスタジオで演ってもおかしくない雰囲気を醸すサウンド。しかし、この時代にしてはアコースティックギターのリズムが細かい。だから、実の詰まったアレンジに聴こえる。詞的には、まだ岡村ちゃん節が現れておらず、かなり硬い印象。それにしても、デビュー曲にして既に、マイケルジャクソン張りの「ホゥーッ!」というシャウトが冴え渡っているのはさすが。


6.「いじわる」
2ndアルバム「DATE」から。フェロモンたっぷりの変態エロワールドが炸裂した初期の名曲。まず、謎なのが「ユカは確かに美人だ 僕のヒップにしゃがんで『うちに来ない』と誘った」という歌詞。「ヒップにしゃがむ」って!そしてその状態で「うちに来ない」と誘ったわけで…。なかなか考察させられる描写である。「ユカはバスローブまとって はしたないこと喋って 今はだっこの形で」や、「明らかに手がチャックで止まんない」などエロい歌詞にも度肝を抜かれたし、自分の名前「靖幸」を詞の中で使っていることや、「あなたの駅から出発5分前」という意味不明の歌詞にもクラクラした。また、最後のエロい長ゼリフは、その後の「靖幸」以降のアルバムに見られる「超絶ナルシスエロセリフ」の端緒とも言える兆候を見せている。そのあたりも含めて、今後じっくり考察してみたい曲である。


7.「イケナイコトカイ」
これも「DATE」から。タイトルからはいかにもエロそうな印象を受けるが、曲自体は、しっとりして且つ情熱的な名バラード「床には たぶん バーボン ソーダ グラス」というフレーズが素ッ晴らしい!メロディへの言葉の充て方が凄い。「ねぇドンファン 虚しいことなのか」も、ワケ分からんながらも何か凄い無理矢理納得させられる。「真夏の雨の様に 18,19が蒸発したけど」というフレーズも秀逸。当時の女性ファン達は、さぞメロメロになったことだろう。しかし、「彼女のLove, Sex, Kiss 朝からずっと待っている」という歌詞から、結局「やりたい」気持ちを情熱的に歌った歌ということが分かってしまう。ま、そのストレートさがたまらんのかもしれないが。


8.「Vegetable」
3rdアルバム「靖幸」から。この頃から明らかにサウンドのクオリティが向上する。編曲に他人を割り込ませないことで、岡村色100%のサウンドになったからだ。この曲は、イントロの入り方から既に独特である。「ハッ、ハッ、ハッ」という犬の吐息のようなブレスからいきなり歌に突入する。この出だしには度肝を抜かれた。凝ったベースラインと密度の濃いリズムトラック、細かくメロディアスなヴォーカルライン、と、曲と録音のクオリティはとても高い。詞も「やりたい」気持ちを前面に出しながらも、ポップ感を随所に出している。また、「おいしかったよ 特別のサンドイッチと そのあとの3分のKiss」などの濃い歌詞をポップなメロディに乗せて、曲全体を可愛く仕上げている。(と思う。)


9.「聖書」(バイブル)
これも「靖幸」から。この曲こそは、岡村ちゃんの「変態エロ超絶ナルシス性」を極限まで出し切ったスッゴイ曲だと思う。冒頭の超絶ナルシスエロセリフは、聴く者を圧倒する。及川ミッチーもガクトも裸足で逃げ出すであろうまさにエロナルシス全開爆裂!の長ゼリフある。メロディーのある詞もトテツもないし、歌が終わってから長いインストパートに突入して、変態風味たっぷり・エロティシズム全開の音世界が展開されていくのも圧巻である。この曲は、別の稿で詳しく紹介するつもりなので、ここではこれぐらいの記述に留めておく。


10.「Shining(君がスキだよ)」
シングル「Dog Days」のカップリング曲。また、恥ずかしいタイトルを…。と、「だいすき」を聴いた後なら驚くこともないだろう。ギターアレンジがマイケルジャクソンの「Black or White」に似ているが、どっちが先なのかは確認していない。「ホウゥーッ」というシャウトがマイケルにそっくりだから、岡村ちゃんがパクった可能性もある。9曲目の「聖書」が濃い曲だったから、まるでお茶を濁すかのように爽やかな曲調の曲を持ってきたのかもしれない。話は変わるが、この曲の詞には「倫社のノート」という言葉が出てくる。他の曲にも「倫社」は出てくる。どうも、岡村ちゃんは「倫社」に特別な思い入れがあるらしい。


11.「Young oh! oh!」
なぜかここに、1stアルバム「Yellow」の曲が来る。やはり「聖書」の強烈臭を消すために、青春パーティソングを持ってきているのか?この曲は、あの尾崎豊と超ノリノリで熱唱したという伝説の曲である。確かに、熱い。強引なほどに熱い。尾崎が好みそうである。


12.「友人のふり」
「靖幸」から。岡村ちゃんのバラードの中で、間違いなく3本の指に入る名曲
辛い恋に苦しむ女友達を慰めながら、友人のふりをしている自分の本心を、傷つくことを覚悟して打ち明けようと葛藤する…。といった内容の、せつない珠玉のバラード。しかし、「あんなに辛かったじゃん 忘れなさい だから」というフレーズを考えると、どうも岡村ちゃんは、可愛い女の子を見れば彼氏がいてもモノにしたくてしょうがなくなるのではないか、と邪推してしまう。(きっとそうに違いない!)


13.「Peach Time(修学旅行MIX)」
1曲目の「Peach Time」のRemix版。どこがどう修学旅行なのかは、解析不能。「Peach Time」という曲自体を「ナンパ」の歌だと仮定すれば、「修学旅行先で、ナンパをしなさい!」という素ッ晴らしい意図を込めたRemixなのかもしれない。とにかく、きっと、岡村ちゃんの修学旅行のイメージはこうなのだろう。「カモンおっさんベイベー」も健在である。




ふぅ〜。
ベストアルバムゆえに、全曲紹介してしまった。
最強アルバム「家庭教師」以外は、もうそういうことをしないつもりである。
あとは、ピンポイントで、コレという曲をピックアップして紹介しようかと思う。

ここまで絶賛?しまくっておいて何だが、岡村靖幸というジャンルは、人によってかなり好き嫌いの分かれるジャンルだと思う。この「早熟」にしても、ジャケットを見た時点で生理的に受け付けない人もいるかと思う。かく言うボクも、そのクチだった。その詞の世界もボクの中には全くなかった、即ち、ボクが敢えて避けて通ってきた恥ずかしい言葉の世界が、これでもかと積み重ねられているものだった。つまり、ボクにとって岡村靖幸は、26歳まで全くの異文化だったわけである。それは黒船来航みたいなもので、近づいてはいけないと本能的に避けてきたものに触れたとき、西欧文化に初めて触れたときの勝海舟のように、ボクも岡村ちゃんに夢中になってしまったのである。そして、ボクの胸中で文明開化の鐘が鳴り響き、「違いを受け入れた」ことで、ひとつフトコロが深くなったように思うのである。

だからこそ、生理的に受け付けないなぁと思った人も、思い切って聴いてみて欲しい気がするのである。(是が非でも推したいというわけじゃないけれども。)
そうすることで、ひょっとすると、自分の感性の幅をひとつ広げられるかもしれない。
それは、おそらく大して意味のあることじゃないだろうから、選択肢の一つと捉えてもらうだけで大いに結構なのだけれど。


END



執筆: 2003/08/03

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