さて、お話は2日目、喜多方ラーメンを堪能した後、

一路仙台へ、豪雨の東北自動車道を北上しているところから。

 

とにかく、福島県の天気は大荒れである。

大粒の雨が、フロントガラスを叩きつけるように降ってくる。

ワイパーを最速にしても、追いつかないぐらいである。

当然、視界はかなり悪い。

前後の車間距離を充分にとらないと……。

と思いつつも、ついついスピードが出てしまう。

路面が滑りやすいのでアクセルを戻しても、

スピードが簡単には落ちないのである。

間違ってもブレーキを踏んではいけない。

それにしても、道が山の中を通っているせいか、

やたらと急なカーブが多く、泣きたくなる。

まだか、仙台。

もうすぐかなぁ……。

と、ボヤきつつ標識を見ると、

“仙台75キロ”

ガガーン。(絶望を表すピアノの不協和音)

思っていたよりも遥かに、東北地方は広いのであった。

 

お釈迦様の掌の平から出られない孫悟空のような心境で、

ひたすら走り続けて何とか福島県を脱出し、宮城県に入る。

そのあたりから、雨が小降りになり、少し気分が楽になった。

この分だと、仙台に着く頃には止むかもね。

そんな希望的観測を胸に抱きながら車を走らせ、

ついにボクらは、仙台に到達したのだった。

 

 



 

 

マイナー旅行記 みちのく編 

第2日の午後

 

雨の仙台・

彷徨うワインディング
ロード

 

 



 

 

仙台である。


結論から言うと、


この街は「何もかもが予想外」だった。


 


まず、止むと思っていた雨が止まなかった。


お前は、気象予報士か。


と、読者の方はツッコミを入れたくなるかもしれない。


確かに一般的には、雨が止まなかったぐらいで、


「予想外」などと、取り立てて言うのは大袈裟である。


しかし、その日の就寝前、ボクは声を大にして叫んだのである。



 

「雨さえ止んでいたら!!」


 

と。


そのことは後にわかるので、さておくとして、


予想外と言えば、


仙台市街に入る時点でも、意外だなと思うことがあった。



 


それは、東北自動車道を走行中、


“仙台出口”と書かれた標識が見えてきた時のことである。


仙台のすぐそこまで来ているのに、道は未だに山の中なのである。


おかしい。


仙台はそんなに田舎ではないはずである。


仙台は東北随一の都市である。


人口88万人、新潟の2倍近い規模なのである。


しかし、高速道路の出口に至ってもなお、山の中なのであった。


出口の料金所をくぐると、なぜか道はトンネルに入る。


このトンネルの長いこと、長いこと。


長いトンネルを抜けると、


そこは、雪国ではなくて仙台市街だった。(お約束(笑))


そう、山からいきなり市街地なのである。


はっきり言って、仙台市街はかなりの都会である。


洗練された街並、整然としたビル群。


コンビニも多いし、ごたごたしたマンション群もある。


だから、路地裏にも都会特有の無機質な雰囲気がどこか漂う。


なのに、周囲は都会の雰囲気など微塵もない山地なのである。


普通は、これほどの規模の都市だと、


都心、郊外、田畑、山地、というように、


それなりのコントラストがあるものである。


山からいきなり都会に出るというのが、


景色の展開としては全く予想外だったのである。


山地の高速道路から仙台市街に入る道を作るのに、


これほど長いトンネルをぶち抜くしかなかったとすれば、


さすがは、かつて伊達正宗が居城を構えた街、と言う他なく、


おそらくは山と海に挟まれた天然の要塞だったのであろう。


などと、司馬遼太郎「街道をゆく」風に解説したくなる街である。





 


ともあれ、とにかく雨の仙台市街に侵入したのであるが、


この時点では、まだ田舎気分が抜けずタカをくくっていた。


とりあえず、明日の天気が気になっていたので、


地元の新聞でも買おうという話になり、


ビル街の道路脇に車を路駐して、コンビニに入ったのである。


コンビニで「河北新聞」なるものを見つけて購入し、


上機嫌で車に戻ろうとそちらを見やると、


何と、婦人警官が車のそばをウロついているではないか。


駐車違反の取締まりである。


すでに後ろの車は駐禁の札を付けられている。


仙台くんだりまで来て、駐禁なんぞ取られてたまるか!


と、ボクらは猛然と車までダッシュし、


何とか危機を逃れたのだった。


それにしても、


ほんの数分の間に駐禁の取締まりが来るとは……。


もう一度言おう。


仙台は、都会である。


 




その時点で、3時半かそこらだったと思う。


とにかく早く宿を探そうということで、


仙台駅まで車を乗り着け、観光案内所で、


例の如く、一番安い宿を紹介してもらった。


これがまた、素泊まり3000円ポッキリという、


ユースホステルも裸足で逃げ出すような安旅館である。


もらった地図を頼りに、旅館に辿り着いてみると、


これがまた、かなり古そうでボロい建物である。


その上、両隣と裏側がマンションに囲まれていて、


ロケーションも最悪である。


さらに、部屋に案内されて窓の外を見ると、


庭が草ボウボウである。


庭の向こうはマンションのベランダなので、


あまり長々と窓の外を見ていると、


ノゾキと間違われそうな勢いである。


でもまあ、


3000円で寝る場所があるだけでありがたいではないか、


と、半ばむりやり納得したのであった。


宿を確保したので、夕食までに仙台の観光をしよう、


ということになった。


2時間程で行って来れる仙台のスポットはどこかと、


旅館の親父に訊いてみると、


仙台城跡(別名・青葉城)が、近い距離にあると言う。


ほぼ即決で、行ってみることになった。


 




仙台城は、戦国武将・伊達正宗の居城だったところである。


仙台市民からは、親しみを込めて青葉城と呼ばれているらしい。


この青葉城、これがまた予想外だったのである。


城郭が残っておらず石垣だけが残っていたというのは、


ままよくある話で、予想外というほどではなかったのだが、


城の位置が予想外だったのである。


大阪城のイメージが強いせいか、


城は街の真ん中にあるものとばかり思っていたのだが、


この青葉城は街の端っこの山の上にあるのである。


これでは、敵が山側から攻めてくる場合、


城が最前線になってしまう。


そういう意味で、予想外だったのである。


まあ、今よくよく考えてみれば、


あれはあれでよく考えられた配置なんだろうなと、


思えるのだが……。


余談はこのぐらいにしておくとして、


城へ向う車中のボクらは、


城が山にあるなどとは思ってもいなかった。


車外は、相変わらずの小雨である。


仙台城公園(正式名称は忘れた)とかいうのがあるので、


その真ん中あたりに城があるに違いない、


そう思っていたのだが、


道は公園を通り抜け、山道に変わってゆくのだった。


この道がまた、急勾配でおまけにクネクネ、


ちょっとしたワインディングロードみたいである。


道々、森の中に石垣が見え隠れするのが何とも趣深いのだが、


ホンマにこんな山の上に城があったんかい、


と、だんだん思えてくる。


やがて道は峠に差し掛かり、すんなりと峠を越えてしまった。


あれ?


である。


城跡は、山の頂上、即ち峠付近にあるはず……。


でなければ、途中の意味ありげな石垣は何やってん、


ということになってしまう。


どうやら行き過ぎたみたいだということで、


来た道を引き返してみたのだが、


どうしても行き過ぎてしまう。


3往復した後、4往復目になって、


「仙台城址」と書かれた看板の立ったショボい脇道を発見、


無事、城跡の観光を済ませたのであった。


さて、帰り道はひたすら下り坂である。


ここでボクは、何の必然性もない暴挙に出た。


“下りきるまでブレーキを踏まない”


と言い出したのである。


下りきった所まで信号が1本もないので、


そこまでは踏まない、と。


アホである。


アホとしか言いようがない。


仙台まで来て、わざわざそんなことをせずともよいではないか。


今考えれば無謀としか思えないアタックを始めたのである。


ギアをセカンドに入れたり戻したりしながら、


車はテールランプを点灯させることなく、


一つ、二つと、カーブをきって行く。


幾つ目のカーブだったか、


急勾配のヘアピンに差し掛かったときである。


迷わずギアをファーストに入れたのだが、


それでも勾配でぐんぐん加速がついてしまう。


アウトからインベタに車を入れたとしても、


どうしても立ちあがりで通常より外に膨らみそうである。


コーナー出口に対向車が来れば、アウトだな。


思った瞬間、対向車のヘッドライトが!


とっさに、思いきりハンドルをインにきった。


側溝にタイヤを落とさんばかりの勢いである。


正面衝突よりは脱輪の方がマシ、


と、瞬間的に思ったのである。


結果から言うと、


対向車とはギリギリですれ違うことができ、


脱輪もしなかった。


のである。


路面が濡れていたために急ブレーキを踏むのを避け、


思いきりインに寄せたという判断がよかったとも言えるが、


はっきり言って、運がベラボウによかったのである。


普通なら間違いなく脱輪である。


たまたま側溝の幅がタイヤの幅より少し狭かったせいで、


タイヤは側溝に完全に落ち込まず、


1センチか2センチだけはまった状態になったのである。


おかげで側溝がレールの役割を果たし、


アウトに膨らまずにカーブを曲がれたのである。


 




その直後は、


見たか、イニシャルDばりのドラテク!


などと言って浮かれていたが、


今考えると、背筋が寒くなる。


事実、


このことが後に起きる災厄の遠因となったのだから。


 




その後、ボクらは仙台駅周辺で夕食をとり、


仙台市街をぶらついた.。


仙台市街の印象を一言で表すなら、


“東京のキレイなとこだけマネしているな”


である。(別に悪意があっての発言ではありません。)


若者のファッション、ブランド店、各専門店、飲食店、


どれを取っても一応洗練された都会のそれである。


大手デパートもあれば、おしゃれなレストランもあるし、


小ギレイなショッピングモールもある。


でも、何っつーか、個性に乏しいのである。


大阪も、名古屋も、博多も、すごく濃い街である。


その濃さは多分、ゴチャゴチャした繁華街に顕著に表れるのだと思う。


ボクは、このゴチャゴチャ繁華街が好きである。


そこに漲る活気が、その街のカラーになっているからである。


ボクらは、仙台でゴチャゴチャ繁華街を探したのだが、


ついに見つけることが出来なかった。


仙台駅の近くに、大きな商店街がある。


人通りが多く、若者もたくさん歩いていたので、


おそらく目抜き通りの一つだろう。


ボクらは、この商店街を端から端まで歩いた。


ところが―――。


人はたくさん歩いているのに、ヤケに静かである。


繁華街特有の喧騒がない。


それもそのはず、アーケードの入り口には、


眠れないからストリートで音楽をするな、


というような横断幕がデカデカと掲げられているのである。


ここで演らなきゃどこで演るんだ、


と思ってしまうような場所である。


街が静かなのは、路上にミュージシャンがいないせいだ、


とは言わないが、路上の弾き語りすら許されないのだから、


当然、店からガンガン音楽を流すことも許されないわけで、


カラオケ店や飲み屋の客引きもおらず、


ゲーセンの入り口にもUFOキャッチャーかプリクラしかない。


これだけの規模の都市なのに……。


どこか不自然な、ヘンに統制されているような、


そんな印象を持ちつつ、


ボクらは、旅館への帰途に就いた。


 




旅館が近づくに連れて雨が激しくなってきたのだが、


昼間にさんざん豪雨の中を走ってきたせいもあって、


へっちゃらだい! てな気分で車を走らせていたのだった。


さて、旅館に到着し、駐車しようとしていた時のことである。


ちっちゃな旅館なので、駐車スペースは異常に狭い。


車1台がやっと通れるぐらいの幅しかなく、


両脇にはブロック塀がそびえている。


旅館のすぐ前を通っている道は、一方通行で狭いくせに、


大通りへの抜け道になっているせいで、


夜でも交通量がやたらと多い。


つまり、バックで素早く駐車しなければならない。


とはいえ、ボクの(並の)運転技術から言って、


それほど難しいことではなかった。


ハズだった。


しかし、疲労からくる集中力の緩みを全く自覚していなかった。


この雨で視界は悪く、慎重にやらねばならぬ場面なのにである。


「なあに、余裕、余裕♪」


鼻歌まじりで軽やかにハンドルをきって曲がる。


 



ガッ、バリバリッ!!


パリーン!


ンゴゴゴ、


ぬおおおぉぉ!



右のサイドミラーがブロック塀にぶつかり、


無残にもカバーごと砕け散ったのである。


まさに、痛恨の一撃!


仙台まで来てミラーをふっ飛ばすとは!


 




今から考えれば、


仙台城の峠道でのアホなトライアルが、


集中力の多大なムダ使いだったと思うのだが、


その時は、そんな分析力も発動せず、


ただひたすら、


 


「雨さえ止んでいたら!!」

 


と、雨のせいにして叫んでいたのだった。






(つづく)




執筆: 2000/11/02


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