mainer essay
謎の歌 歌というのは、ワケが解らないのが多い。 ノリだけで流行っちゃった、みたいな歌の中にも、不可解な歌詞は多いし、 わらべ歌みたいのにも、不可解な歌詞がけっこうある。 「踊るポンポコリン」とか、「オチャラカホイ」とか、 まあ、真面目に考えてはいけないような気もする。 だから、ボクは、名の知れたメジャーな不可解ソングに対しては、 もう、いちいち考えて悩んだりはしない。(昔は悩んだのか) だから、「何なんだ、この歌はっ!」と、叫ぶようなことも、 ここ数年、久しくなかった。 モー娘が、“ニッポンの未来はウォウウォウ”と歌い狂おうが、 ピクミンの歌が、エエ歳こいたサラリーマンに支持されようが、 心乱されることなど、一向になかったのである。 ところがである。 最近、不覚にも、2、3日中、不可解ソングに悩まされる難儀に遭ったのである。 或る晩の夜半過ぎ、布団の中で、まさに眠りに就こうというそのとき、 その歌は、突然、ボクの頭の中に電波のように舞い降りた。 その歌詞は、次のとおりである。 “ ずんがりがりがりずんがりがーりー ずんがりがりがりずんがりがーりー ” たったこれだけのフレーズである。 メロディーは、単純な短音階で、なんとも言えないもの悲しい感じである。 いや、もの悲しいという言葉では、言い当てられない。 何ちゅうか、うらぶれた、理由もなく罪悪感に捕われそうな感じ、である。 この「ずんがりがりがり」が、夜中に突然、頭の中で鳴り出したのである。 当然、歌詞の意味など解るはずもない。 大体、こんなデタラメな歌が、この世の中に存在するのか。 そもそも、「ずんがり」とは、日本語なのかすら解らない。 ただの、自分の世迷い言ではないのか。 世迷い言だとすれば、ボクのオツムがおかしくなったことになる。 頭に突然電波が舞い降りて、精神が異常を来たしたとでもいうのか。 そんなアホな! 大丈夫か、オレ! ………悩みまくるボクの心は、千々に乱れた。 パニくったと言ってもいい。 しかし、幸いにも、ボクはそこで少し冷静になることができた。 待てよ、「ずんがり」という知らない言葉が、いきなり頭に浮かぶのはおかしい。 ボクは、このフレーズをどこかで聴いたことがあるハズ……。 記憶の奥底を辿れば、きっと何か思い出せるハズ。 思い出せ! 思い出すんだ、ジョー! (何がジョーだ) というわけで、 記憶の断片を忘却の海からサルベージすることに、何とか成功した。 その記憶の断片とは、こうである。 小学校低学年頃のことだったかもしれない。 当時、学校に登校して授業が始まるまでの時間帯には、校内で歌が流れていた。 秋には「もみじ」、春には「春が来た」、冬には「ジングルベル」という具合に。 それらの歌の中に、件の「ずんがりがりがり」があった……ような気がする。 あと、当時、音楽の教科書とは別に、「歌本」なるものが配られていた。 その「歌本」の中にも、「ずんがりがりがり」があった……ような気がする。 と、まあ、ボクの記憶の断片は、以上のようなかなり曖昧なものである。 そして、とりあえずはこれを手掛かりに考える他ないだろうと思い、 簡単に検証してみることにした。 まず、校内放送で歌を毎朝流すというのは、情操教育が目的だったと考えられる。 児童の健やかで豊かな情緒を育もう、みたいな。 そこへ、あの「ずんがりがりがり」の殺伐としたメロディーは、そぐわない。 選曲ミスにしては、あんまりである。 ボクの記憶に誤まりがあると考えるのが妥当なのだろうか。 次に、「歌本」である。 これは、小学生に、これを歌えと言わんばかりの強引な小冊子である。 文部省認定のものだったのか、エエ加減なものだったのか、 記憶が定かではないが、わりと品の無さげな歌もあったと思う。 「ラーメンタンメン」なんていうのもあった。 しかし、である。 「ラーメンタンメン」などは、まだ可愛らしさもある。 いかにも子供が好きそうな歌である。 対して、「ずんがりがりがり」のウソ寒さは、許容範囲を超えている。 こんなしょうもないメロディーをよく考えついたな、と思わせるほどである。 そう考えると、「歌本説」も、あやしく思えてくる。 結局、この歌が何なのかを記憶の断片から探る試みは、頓挫した。 そして、今度は、一から根本的に考えてみることにした。 そもそも「ずんがり」とは、何ぞや。 日本語なのか、スワヒリ語なのか、はたまた人外の言語なのか、 ウルトラマンの「シュワッチ」のようなものなのか、 てんで見当もつかない。 というわけで、こんなときに役立つのがインターネット。 色々な検索エンジンで、「ずんがり」を検索してみた。 キョウビ、検索エンジンに掛ければ、大概の単語は、多数ヒットする。 しかし、この「ずんがり」のヒット数は異常に少なかった。 しかも、いくつかあったリンク先は、元を辿ればほぼ全て、 「ずんがり」という山岳サークル?のWebサイトだったのである。 そのWebサイトによれば、「ずんがり」とは、ロシア語を文字ったものらしい。 意味は、明記されていなかったので解らずじまいである。 しかし、どうも、あの歌の「ずんがりがりがり」とは、関係なさげである。 そこから、歌のことが一切見つからなかったことからも、関係はなさそうだと言える。 その後、いろいろと捜してみたが、結局、決定打を得ることはできなかったのである。 それにしても、キョウビ、ネットで調べられないことなんてあるのか? と考えるのは、現代人の傲慢かもしれない。 とまれ、その夜は、モンモンとしながらも、寝ることにした。 モンモン。 モンモン。 次の日は、デジタルで駄目ならアナログで責めようと思い立ち、調査を開始した。 とはいえ、平日に図書館に行く余裕などあるはずもなく、 周囲の身近な人間に訊いてみることぐらいしか、できなかった。 そして、収穫は、ゼロ。 親や妹、友人などにも、恥を忍んで自ら歌って聴かせてみたが、 知らないと言うどころか、ボクを白い目で見る者まで出る始末。 このままでは、ボクは変人扱いされてしまう。 何とか突きとめねば。 と、焦りつつも、その日は、無為に過ぎていった。 次の日、ボクの苦悩は、「探偵ナイトスクープ」に投稿する寸前にまで達した。 しかし、テレビに出るのは、嫌だった。(関西ローカルでも) 桂小枝に茶化されるほど暇ではないし、こっぱずかしい。 第一、 小ネタで片付けられる危険性が高い。 というわけで、ボクは、ねばった。 目を皿のようにして、深夜のネットサーフィンを続けた。 そして、苦闘の末、ついに、例の歌の存在を確認した。 どうやら、歌詞には続きがあるらしく、次のような歌詞らしい。 ずんがりがりがりずんがりがーりー ずんがりがりがりずんがりがーりー 開拓者たちの目的はー何か 開拓者たちの目的はー労働 ほとんど、驚愕である。 どこでどのように歌われた歌なのかは、解らないが、 まるで何かのプロパガンダのようではないか。 「目的が労働」というのを植え付けるような意図を感じる。 いろいろな思いがボクの胸に去来したが、 これ以上は、このサイトに相応しい内容ではないので、言及を避けることにする。 (思想みたいなものを、サイトに持ち込みたくないのです。) この歌には、いくつかの亜種があるようであるが、 その発祥などについては、調べられなかった。 それにしても、驚いた。 どーりで、暗いメロディーなハズである。 どーりで、背筋の寒くなるような印象を受けるハズである。 しかも、ボクの少年期の記憶にこの歌がリンクされていることにも驚く。 知らないうちに、誰かに吹きこまれたのだとすれば、 洗脳めいたことをしようという意図に巻きこまれていたのかもしれない。 幸いにも、ボクの頭に残ったのは、「ずんがりがりがり」というフレーズだけで、 肝心のヘンテコなスローガン?は、存在すら頭から消去されていたが。 この歌に関して、ボクが知り得たのはこれだけなので、 まだ調べる余地は十分にあるのだが、 何だか、これ以上知りたくないなーという気分になったので、 いや、ちょっと恐ろしくなってきたので、 調査を、そこまでで打切りということにしたのである。 とにかく、あの歌が本当に存在した、つまり、ボクの頭はおかしくなかった、 ということで。 END 執筆: 2002/02/02 |