Miner Essay



 

「カナブン」

 




いきなりで何だが、


カナブンは、妙な生き物である。


そもそも、虫というやつは、大体妙ちくりんで不可解な輩だが、


その中でも、カナブンは特に妙である。


何を考えているのか、さっぱり解らない。


人知を超えているとさえ言ってもいい。


ボクは、カナブンを見る度に切に思う。





お前は一体何がしたいんだ!?





と。


そんなことを言い出せば、


昆虫全般に問い正す必要が出て来てキリがなくなるが、


ボクにとっては他の虫などどうでもよく、


特にカナブンに対して問いたいのである。


 


夏が近づいて来ると、ヤツらはどこからともなく飛んで来る。


そして、ボクの家(マンション)の前の溝でひっくり返っている。


その溝は、深さ1センチ、幅10センチぐらいで、水がない。


そこで、仰向けにひっくり返って、手足をバタバタさせている。


それも、1匹や2匹ではない。


幾匹ものカナブンが、仰向けになってバタバタしているのである。


中には、起き上がれぬまま干からびて死んだのまでいる。


っていうか、放っておいたら、全滅に違いない。


 





アホか。





 


大体、自力で起き上がれないのもカメ並に間抜けだが、


何故、わざわざ溝にやってきてひっくり返るのか。


ボクは一度、可哀そうに思い、一匹のカナブンを表返してやったことがある。


しかし、同じ場所を再び通ったとき、そのカナブンはまた裏返っていたのである。


まさに、不可解極まりない。


考える葦である人類をあざ笑うかの如く、超哲学的である。


プラトンやアリストテレスも裸足で逃げ出す不可解さである。


お前らは一体、何が悲しくてそんなアホな死に方を選ぶのか。


人間の自殺とは全く趣が違う。


大体、考えてもみて欲しい。


苦悩と挫折のあまり人生に絶望した人間が、


大きなタンスを背中にくくり付けて、ひっくり返り、そのまま起き上がれなくなって、


ひたすら手足をバタバタさせた挙句、自宅で孤独死……。


そんなアホな自殺の仕方を考える奴がいるだろうか。(いや、いない。)


間違った選択をするにしても、自分の命をそんなギャグに賭けることなど出来はしない。


自ら死を選ぶ人間にとっても、自分の命は間違いなくそれなりに重いからである。


そこを曲げて、敢えて、躊躇なく、頑なに裏返しになりたがるカナブンとは、


一体、何者なのだろう……。


きっと、人知を超えた、深い深い、


人間様など思い及ぶこともない深遠な考えを持って……。


 


と、そこまで考えて、ふと重大な可能性に気がついた。


もしかして、カナブンは、


ひっくり返りたがるのではなくて、ひっくり返ってしまうのでは?


そういう体型というか、ツルツルした所では起き上がれないだけというか……。



絶対に、そうだ!




そうに違いない!




ヤツらが、そんなフランス文学ばりの不条理な思想を持っているはずがない!





単にどんくさいだけに違いない。


 


ま、ボクにしてみれば、このクソ忙しい中、


カナブンについて想いを巡らせたことは、全くの時間のムダになったと言うべきか、


物事を遠巻きに考えてはいけないことを思い知ったと言うべきか……。


 


End




執筆: 2002/03/21

 

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