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勝手に名曲紹介


岡村靖幸
「いじわる」 〜 超絶エロの夜明け 〜







この曲については、以前の稿(「早熟」)でも軽く触れたが、今回は有言実行を果たすべく、じっくり考察してみることにする。

この曲を初めて聴いた時の衝撃は、今でも忘れられない。
どういう衝撃だったのかというと、カルチャーショックだったのである。
とにかく、エロい!そして、おかしい!
語彙といい、描いている世界といい、ボクの中には全く存在しなかった異文化が、そこにぶちまけられていたのである。

本稿では、その妖しくもスッバラシイ詩世界をじっくり考察してみよう。



まず、以前にも触れた冒頭部分から。

「ユカはたしかに美人だ 僕のヒップにしゃがんで『うちに来ない』と誘った」

もう、この時点でボクの頭は混乱を余儀なくされた。
前にも言ったが、大体、「ヒップにしゃがむ」って!
こんな語彙は、在り得ない。っていうか、誰も考えつかない。
つまり、この世の中に存在しない語彙なのだから、すぐにはボクの想像力が追いつかなかったのである。
いろいろ考えたが、おそらく文法的には、「しゃがんだ状態で、僕のヒップに対して『うちに来ない』と誘いの言葉をかけた」とでもするのが正しいのだと思う。それを、岡村ちゃんの感性で言語化した結果、「ヒップにしゃがむ」という表現が生まれたのだと思う。
「ヒップにしゃがむ」をもっと直感的に解釈すれば、おそらく、「ユカは岡村ちゃんの背後にしゃがんで、そう、ちょうど岡村ちゃんのヒップに顔が来るような体勢で」という意味なのであろう。
で、その体勢でヒップごしに「うちに来ない?」と誘ったわけで・・・。





エロ過ぎる。



すでに1行目から、このエロさは何なんだ!



と、叫びたくなるが、パソコンの前で一人叫んでも虚しいので、話を進めるとしよう。




そして次の歌詞。

「ユカはタフかと聞くんだ 濡れたリップがしぼんだ 僕はちょっぴり笑った」


ユカはね、タフかと聞いてくるんですよ!(依然、ヒップにしゃがんだ状態で)
そして、濡れたリップがしぼむんですよ!(たぶん、ンチュッパッて感じで)
で、岡村ちゃんがちょっぴり笑うんですよ!(たぶん、フフッって感じで)

もう、この一連の岡村ちゃんとユカのやりとりは、とてつもなくエロくて、蠱惑的である。今どきの盛りのついたヤンキーどもの芸もクソもないナンパとか逆ナンとかとは、もう根本的にムードが違うわけですよ!どこか奥ゆかしさすら漂うエロティシズムの発露なのであるっ!(言い様によっては、変態。)




で、次の歌詞。

「職場はディスコで遅番のウェイトレス 頭はちょっと染めてるかんじで
 Crazy little thing is called love」


ここで初めて、ユカがディスコのウェイトレスだということが判明する。
髪をちょっと染めた遅番のウェイトレス、つまり、お行儀のいいお嬢様タイプではない、遊びを知っている擦れたタイプの女の子だと推察できそうである。
で、ここで気づくのは、ユカはウェイトレス姿で、仕事中に、客として遊びに来ている岡村ちゃんのヒップにしゃがんで、うちに来ない?と誘っているのではないかということである。(飛躍した妄想?)
しかも、ユカが岡村ちゃんのヒップにしゃがむわけだから、岡村ちゃんは立っているわけで、ディスコで立っているということは、即ち、踊っていると推察できる。座って踊る奴などいやしない。


ここで、これまでの考察を踏まえて状況を整理してみよう。


深夜、欲望渦巻くディスコでは、若者達が、刹那の快楽を求めて狂気乱舞する。
美人でちょっと茶髪のユカは、ディスコのウェイトレス。
遊び慣れて目の肥えた彼女には、踊っている軽薄な男達など目に入らない。
皆一様にただのギラついた、彼女を満足させるに足りない凡夫に見えるのだ。
今夜もユカは、銀色のトレイにカクテルを載せて、退屈そうにフロアを行き来する。
つまんないオトコたちばかりね。
そう思いながらも舐め回すように巡らせていた彼女の視線が、ふと一人の男に留まる。
周囲より頭一つ高い長身の男。長い脚。DCブランドのスーツを着こなして、独特なステップで激しく踊っている。紛れもなく、ダンサブルなプリンス、岡村ちゃんである。
岡村ちゃんに目が止まったが最後、彼女の視線はもう釘付けである。
ユカは、半ば恍惚とした表情で、引き寄せられるようにフロアの中へ入って行き、セクシーに腰をくねらせて踊っている岡村ちゃんの背後にしゃがみ込んだ。そして、岡村ちゃんのヒップを後ろから抱きすくめるようにして、「ねぇ、うちに来ない?」と誘った。
岡村ちゃんが答えるよりも先に、ユカは濡れた唇に妖艶な笑みを浮かべ、「あなた、タフなの?」と聞いた。
岡村ちゃんは何も言わず、自信ありげにフフッと笑った。



いささか、ボクの妄想と脚色が入り混じっているような気もするが、きっとこんな感じであろう。
いや、こうなのだ。こうに違いない!(←強引すぎ)




さて次は、いよいよサビ。

「愛されていたいならば 聞かせてよ Bedでの love song
(I heard you say)愛されていたいならば 靖幸に Bedでの love song」


「Bedでのlove song」という言葉自体は、非常に婉曲な表現だと思う。
ここまでの歌詞の流れから言って、直接的な表現だと「Bedで悩ましく喘いでよ」
みたいな感じになるはずである。そこを、「Bedでのlove song」と敢えて綺麗な言葉に置き換えるあたり、岡村ちゃん流の詩情であり、また恋愛至上主義的な80年代の匂いも感じられる。
そして、最も印象的なのは、「靖幸に」と自分の名前を詞に入れている点である。
他の誰でもない、岡村ちゃん自身のことを歌っているのだと、強調するにしてもあまりに強烈なインパクトがある。自分大好きな人でないと、こういう詞は絶対に書けない。
極論的に、「自分大好きな人」と「自分大嫌いな人」のどちらに惹かれるかというと、意見は真っ二つに分かれそうな気がするが、この問題は、「ナルシスト」が好きか嫌いかと置き換えて考えると多少、分かりやすくなるような気がする。
ちなみに、ボクは、ナルシストが嫌いだったのだが、岡村ちゃんを知ってから、ナルシストの魅力に気づいてしまった…。(泣)

ナルシスト、万歳!

と、モロ手を挙げて肯定するほどまでには至っていないが、これはこれで得も言われぬ良さがあるなぁと思うようになったことだけは否めない。




そして、2コーラス目のAメロ前半。

「雪で埋まったベランダ よく笑うのは邪念さ 土曜の夜はしょうがない」

季節は冬で、土曜の夜で…なんとなく状況は分かるのだが、全体としては意味がよく分からない。何に対してしょうがないと言っているのか、とても分かりづらい。土曜の夜は気持ちが浮かれているから、よく邪念で笑うのはしょうがないんだと。そう言っているのだろうか。まあ、よく分からないけれど、これはこれでいい。詩なんだから、必ずしも明瞭である必要はないだろう。しかし、「よく笑うのは邪念さ」が、とっても怪しい、イケナイコトをしているような雰囲気を醸し出していることだけは、はっきりと分かる。




そして、同Aメロ後半。

「ユカはバスローブまとって はしたないこと喋って 今はだっこの形で」

ああ、やっぱりそういうシチュエーションに持っていくわけね!
って、ごく自然に納得させられてしまいそうになる。
「はしたないこと」って何?って、聞くのは野暮なのだろう。きっと。
そこをぼかすところは、実に80年代的で、ボクには好ましく思える。
しかし、「今はだっこの形で」は、強烈である。
ジャブのワンツーの後に、死角からの右ストレートがテンプルに炸裂!
という感じである。
ぼかしちゃあいねぇ!
さすが、岡村ちゃんである。




次、2コーラス目のBメロ。

「遊ばれ上手な彼女の涙に かなりのショック受けたりするのは
 crazy little thing is called love」


やはりユカは、遊び慣れた女なのである。
そんな彼女の涙に、岡村ちゃんはかなりショックを受けてしまう。
勢いでコトに及んじゃったけど、実はこの娘、結構純情なんじゃないだろうかと。
と、一度はそんな岡村ちゃんの心の揺れを見せておいて、
「crazy little thing is called love」で、見事に迷いを打ち消している。
そんなクレイジーで些細な事を愛って呼ぶんだぜ!みたいな感じである。




で、1コーラス目と同じサビ「愛されていたいならば〜」につながり、
次に、この曲の中で最も凄いセクションの一つに入る。

「(everybody sing) Hey Hey 誰にも言えぬ kissをしたら
 明らかに手がチャックで止まんない
 Hey Hey ジュエリーの趣味も立派なモダンライム
 あなたの駅から出発5分前」



誰にも言えぬkiss?
そんなフレーズじゃアタシャ、もう驚かないよ。って思ってたら、
「明らかに手がチャックで止まんない」と来たもんだ!
もう、アンタ、何考えてんの!って、叫びそうになる詞である。

欲望を隠そうともしない!

赤裸々だ!

ただ、ただ、赤裸々だ!



そのリアルさと表現の妙に、舌を巻くばかりである。
しかも、その冒頭の「(everybody sing)」は何?
コレを、みんなで歌えと?
ああもう、ライブで女性ファン達が狂喜して声を揃えて歌うサマが目に浮かぶ…。(泣)

そして、またしても爆弾、「立派なモダンライム」。
この曲最大の謎フレーズである。
大体、googleで「モダンライム」を検索しても、1件もヒットしない。(2004年4月20日現在)
(願わくば、この稿が1件目になりますように…)
つまり、日本にそんな言葉があるのかすら疑わしい。
と、ボクは思うのだが、宝石業界の用語なのだろうか?
誰か教えてくれ!頼む!

そして極めつけは「あなたの駅から出発5分前」。
クラクラする言語センスである。
おそらく、普通の人はこの言葉の意味がスッと頭に入ってこないだろう。
かなり長い間、理解不能のフレーズだと思っていたが、
最近、理解できたような気がする。
「あなたの家の最寄り駅から出発する5分前」を縮めているのだろう。
つまり、ユカの方から最初に、「うちに来ない」と誘ったんだから、
今までの情事はすべてユカの家でのことだったわけで、
翌朝、ユカの家を出て、その最寄り駅のホームで電車を待っている
その情景を歌っているわけだ。
手がチャックで止まんなくなってから、一足飛びに翌朝にまで時間が経過しているわけで、
当然、リスナーは、この時間の飛躍に想像力が追いつかず、クラクラさせられる。

というのが、ボクの見解だが、どうだろう?



そして、曲の最後には、やはり凄すぎるセクションが待っている。
あの超絶エロセリフである。



まずはこれ。

「君がどのくらいエッチな女の子だか知ってるよ・・・・だから今夜呼んだんだ」

いきなり「うわ〜!」なセリフである。
しかも、今夜呼んだのはユカの方だったはずである。
いつから岡村ちゃんが呼んだことにすりかわったのか。
いや、岡村ちゃんにしてみれば、自分が呼んだつもりでユカの部屋へ行ったのだろう。



そしてこれ。

「ねえ 髪の毛を洗ってあげようか…いや 違うってば ふざけてなんかない…
 僕のことをもっと知ってほしいんだ 理解者になってほしいんだ」


ほとんど変態である。
いやそのものと言ってもいい。


だって、本人は「ふざけてなんかない」って断言しているもの!


本気なんかい!


なぜ、髪の毛を洗ってあげる行為が、理解者になってもらうことにつながるのか。
っていうか、
出会ったばかりの子に、理解者になってもらいたいという感情を抱くか?普通!
岡村ちゃんが普通じゃないのか、ボクが普通じゃないのか、普通って何なのか、もう分からなくなってくる。
同じ男として、僕には異文化としか言いようがないが、
聞く人によっては、特にファンの女性の場合、この若くセクシーな男の真剣さに、
保護欲みたいなものをそそられるのかもしれない。



そして最後にこれ。

「それはそうとして どのやりかたが いちばん気持ちいい?」

それはそうとしてって!
やっぱりふざけてたんかい!

結局、まっしぐらに性欲を全開にする岡村ちゃんなのである。
おそらく、岡村ちゃんはいつも本気なんだと思う。
「理解者になってもらいたいんだ」と言うときも本気だし、
「どのやりかたがいちばん気持ちいい?」と言うときも本気なのである。
この本気さに、惚れてしまう女性ファンが多いのも、分からないでもない気がする。


それにしても。
これほどエロく、ダンディで色んな意味で男らしい曲はそうはない。
80年代の風潮が垣間見える要素もあるが、同時代にこんな曲は他にないだろう。
もちろん、90年代以降にもないと思う。
それほど、岡村ちゃんの特異な独自性が顕著に現れた曲なのだと思う。

うーむ、グレイト。



End


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