◆MinorEssay◆



「ヒヨドリ」





気になる鳥がいる。
ヒヨドリという鳥である。
スズメより大きく、ハトより小さい。
身体の色はグレーで、後頭部の羽毛がササクレている。
このササクレが寝癖のように見える。

ウチのベランダによくやって来るのだが、
こいつがなかなか愛嬌があって可愛い。
ヒヨドリと聞いてどんな鳥かすぐに思い浮かぶ人は、
どれくらいいるだろうか。
ヒヨドリは、わりと都会にもいる鳥である。
そのへんにいる鳥と言って差し支えない。
そのへんにいる鳥で、スズメ・ハト・カラスしか思いつかない人は、
もう少し、周囲を観察する余裕を持った方がいいかもしれない。

で、このヒヨドリなのだが、
ウチのベランダにやって来る目的がおそらく2つある。
1つは、「エサ目当て」である。
冬の間は、ヒヨドリのエサになる木の実や虫が少ない。
そこでターゲットになるのが、民家の鉢植えである。
どうもヒヨドリは、ウチのベランダのパンジーが好物のようである。
ウチの母親なんぞは、ヒヨドリを目の仇にしているが、
ボクからすれば、いたずらっ子のようで微笑ましかったりもする。
2つ目は、「雨宿り」である。
雨の日にベランダをふと見ると、
よく手すりにヒヨドリが止まっているのである。
ずぶ濡れになって首をかしげたりして、何だかヒョウキンである。

ヒヨドリを見ていると羨ましい気分になったりする。
とにかく、楽しそうな感じがするのである。
基本的に、野生動物は必死でないと生きていけないものだが、
どうも、ヒヨドリからは余裕とまではいかないが、遊び心に近いものを感じる。

例えば、ヒヨドリはあまり逃げない。
ハトほど図太いわけではないが、ちょっと近づいたぐらいでは逃げない。
しばらく様子を見ていて、危なそうだと思うと逃げる、という感じである。
とにかく反射的に逃げるスズメのような神経質さはなく、
かといって、ギリギリまで粘るハトのような厚かましさもない。
どのあたりで逃げようという自分なりの基準を持っていそうで、
ほどよい逃げっぷりである。

次に、ヒヨドリはうるさい。
特に、繁殖期の春は、とてもカン高い声でやかましい。
明け方にヒヨドリの声で目が覚めることもあるぐらいである。
けれど、布団の中でヒヨドリの声を聴いていると、
面白いことに気がつく。
ヒヨドリ達は声の掛け合いをしている。
それもどうも、お互いの声色をまねているようなのである。
誰かが突然ヘンな鳴き方をすると、面白がって他の奴がマネしているような感じである
小学生が「アイ〜ン」と言えば、他の小学生も「アイ〜ン」と言うようなノリである。
ゆえに、年によって鳴き方に流行があるように思うのだが、どうだろう。

例えば、或る年の流行は忘れられない。
なんと、鳴き声が「音階」で聴こえたのだ。
「ド、ド、ド、ド、ド、ドレミ、ファファファファファ」
これの大合唱というか、輪唱である。(本当です)
誰か人間が教えたんじゃないかと思わせるほどの、
見事な西洋音楽の音階だったのである。
その年以来、二度とその輪唱を聴いていないが、
とにかく、ヒヨドリがやかましくしつこく、
無邪気に「音階」を歌いまくった年があったのである。
本当にヒヨドリ達の間に鳴き方の流行があるのか否かは分からないが、
彼らの今年のヒットチャートはどんなだろうと想像すると、
何やら楽しくなってくるではないか。

彼らの鳴き声合戦が、遊びなのか必死な生の営みなのか、はたまたその両方なのか、
明確な判断はつきかねるが、ボクには程よく楽しげに聴こえてくるのである。

その他、ヒヨドリには不思議な魅力がある。
ヒヨドリには渡り鳥もいるらしいのである。
ウチの近辺にいるやつは、1年中いるので「渡り」をしないのだろうが、
地域によっては、集団を作って「渡り」をするヒヨドリがいるそうである。
同じ種なのに、そこまで行動様式が違うのは驚きである。
渡り鳥の「渡り」は命がけの大旅行である。
それをするのとしないのとでは、天と地ほどプレッシャーの開きがある。
「渡り」をするヒヨドリとしないヒヨドリとでは、
宮本武蔵と本位田又八ぐらいの差があると思うのだが、
それでよく種として共通の形態を保っていられるものだと不思議に思うのである。

また、ヒヨドリは結構嫌われ者だったりもする。
庭木や畑を荒らす害鳥として駆除の対象となった時代もあったらしい。
何しろ、彼らは非常に大食漢なのである。
花の蜜を吸い、さくらんぼを食べ、虫を食べ、花を食べ、木の実を食べる。
赤い南天の実など、一つ残らず食べ尽くしてしまう。
他の鳥を追い払ってエサを独り占めしたりもするというから、凄い食い意地である。
しかし、自然の生態系から言うと、彼らの役割は大きい。
ヒヨドリのフンは、木の実など食べ物の原型をかなり留めている。
つまり、実は食べ尽くされても、地面に落ちたフンから発芽するわけである。
植物にとっては子孫を増やすのにとても都合がいいのである。
だから、彼らの食欲の被害にあった人達には申し訳ないけれど、
ボクは彼らの食いっぷりが結構好きだったりする。


食いしん坊バンザイ!


である。

もう一つだけ、ヒヨドリの飛び方について言いたいことがある。
ヒヨドリは、やかましくて食いしん坊なので、ガサツなイメージを持たれがちである。
で、すぐに逃げなかったりするので、憎らしいと思う人もいる。
だから、飛び方も下品だと思われそうだが、
ヒヨドリの飛び方は意外にも美しいのである。
大きな上下動を繰り返しながら飛び、うねるような波形の軌跡を描くのである。
羽根を広げて上昇し、閉じて泳ぐようにして降下する姿は、なかなかに優雅である。
それだけでなく、ホバリングやきりもみ降下など、アクロバティックな飛び方も、
時々披露してくれるので、飽きさせない奴である。

そんなこんなで、ヒヨドリは、
身近にいるのによく分からない、そしてどこか楽しげでもある、
何年か前からずっと、気になる鳥なのである。



END



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