〜あとがき〜
話がおかしいというのは、本来はすべきでない無粋な指摘なのかもしれません。
でもまあ、マイナーサイトですから、敢えて「それを言っちゃあオシマイよ。」的なことも、
言っちゃおうと。
とはいえ、ボク自身が作品に対して抱いているリスペクトは、ちゃんと表したつもりです。
執筆: 2001/10/13
映画の小窓11
平たく言うと、インパクトのメチャ強い映画である。 各界の著名人・文化人も口を揃えて、絶賛したらしい。 素直に見ると、この映画からは、圧倒的な負の印象を受けてしまいそうである。 救われないヒロイン、困窮、やりきれなさ、醜いエゴに縛られた人間の姿……。 悲しい運命に翻弄される中で、輝きを放つヒロインの歌声、踊り……。 愛する息子のために死刑を選び、絞首台で生々しく絶叫するヒロイン……。 素直に見れば、見る者の心を奈落の底まで連れて行ってくれそうな映画である。 映画館で見れば、ボクも感動とともに底無しの虚無感を味わったかもしれない。 しかし、幸か不幸か、ビデオで見たからなのか、 ボクは、至極冷静にこの映画を鑑賞してしまったのである。 冷静に見終わってから、ボクはこう思った。 「この話は、おかしい。」 良かったとか悪かったとか言う以前に、話がおかしい。と。 ネタばらしになるので、ストーリーを詳しく言うのは避けるが、 大まかに言うと、おかしいと思う点は、2点ある。 1つは、穴だらけの裁判である。 中世や近世の時代物ならば、あの裁判でも構わないが、 現代の裁判としては、プロットが粗すぎるのである。 どう粗いのかについては、そういう目で映画を見れば確認できるかと思う。 もう1つは、終盤における、工場で働く年上の友人キャシーの言動である。 看守を振りきって絞首台にすがりついて泣くほどの情があるならば、 貧しくとも、彼女がセルマ(ヒロイン)を救済する手だてがありそうなものである。 話の中で、セルマが助かるためにネックとなっているのは、 客観的には、いくらかのお金(弁護士に払う費用)である。 その金額は、別に何千万とか何億とかいう額ではない。 人一人の命が掛かっていると思えば、どこかから借金できるような額である。 ところがキャシーの頭からは、セルマを金銭的に助けるという考えが欠落している。 もっと言うと、脚本からそこのところの考慮が伺えない。 つまり、プロットの組み立てに強引さを感じざるを得ないのである。 すべての要素が、セルマが死ぬという結末に向けて設定されている。 それはそれで、構わないと思う。(個人的にデッドエンドは嫌いだが) むしろ、デッドエンドと決めた以上は、そうでなければならないのかもしれない。 しかし、それならそれで、設定とプロットの組み立てが緻密でなければならない。 でないと、ヘンに話が稚拙で強引な作りに見えてしまう。 事実、ボクは、「何だかムリヤリでっち上げたような話になったなぁ」と、 エンドロールを見ながら呟いてしまったのである。 作り手側が、ワザと強引な作為性でもって不条理感を演出したと言うのなら、 もはやボクには、言いたいことなど何もなくなるが、 おそらく、ワザとではない、と思う。 閑話休題。 この映画で最も素晴らしいと感じた点は、ミュージカル表現である。 もっと具体的に言えば、歌と映像のマッチングである。 セルマの妄想と現実とがミュージカルシーンを介して入り混じる様子には、 一瞬、澁澤龍彦文学に通じるものを感じたのだが、 これほどの歌の凄さと絶妙な映像には、今までにない新しい境地なのでは? と思わせるものがある。(ボクの少ない鑑賞経験から見てであるが) 普通、劇場でミュージカルを見る場合、お約束として、甘受すべき違和感の問題がある。 それは、人物達が突然歌い踊り出すことの不自然さである。 普通の台詞のやりとりから、にわかに音楽が鳴り始め歌い踊る、というやつである。 これがあるからミュージカルは馴染めない、という人もいるぐらいである。 こういうものだと思って鑑賞するのが、文化の良き理解者なのか否か、 意見は分かれそうだが、とまれ、そういう違和感の問題がある。(と思う。) ところが、この映画は、ミュージカルの持つ違和感を解消しているのではないか。 ボクは、そう思うのである。 映画というカテゴリー自体が、もともと強い音楽との結びつきを持っているために、 人物が歌い踊り出すシーン(ミュージカルシーン)への導入がやりやすいということもある。 事実、例を出すまでもなく、過去に傑作と言えるミュージカル映画は数多くある。 だが、この映画では、各ミュージカルシーンへの導入部分の表現、 即ちセルマの妄想と現実の境界の表現に、独特の神経が払われており、 さらに、セルマの妄想世界にミュージカルシーンを充てることで、 違和感の問題をごく自然な感じで解消しているところに、イノベーションを感じる。 この境界の表現と違和感の解消という点で、この映画は他と一線を画しているように思う。 他に、際立った要素としては、効果音の挿入が巧みだったことが挙がるが、 これについては長くなりそうなので、また別の稿で述べることにしておく。 何だか、真面目に作品を評してしまったが、率直な感想をもう一つ言えば、 セルマ役のビョークの歌は、本当に凄かった。 どう凄いのかをあれこれと述べるのは、愚かに思えるが、少しだけ言うと、 スタイルにとらわれない、奔放な、伸びやかな、水のような、 といったところ………やっぱり言い表せない。 ともあれ、ボクから見たこの映画は、 芸術面で五つ星、だけど、話がおかしいのが残念、という印象だった。 ある一方に傾くと、もう一方がおざなりになる…。 かと言って、バランスを取ることに執心すると凡作ができあがる。 どうも、完璧な作品というのは生まれ難いようである。 (だから、B級映画が好きなんだよなぁ。薄っぺらいけど。) END |
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