◆今日のコラム◆

2005/06/05

「猫」


犬より、猫の方が好きである。
どちらも愛玩のために飼いたいとは思わない。
でも、見ていて飽きないのは猫である。

猫というのは、人間を上にも下にも置かないフシがあると思う。
気が向けばすり寄ってくるが、機嫌が悪いと目もくれない。
そのくせ、意外と嫉妬深かったりもするので、扱いにくい。
猫とは、一定の距離を保ってつき合わねばならない気がする。
しかし、この微妙な距離感が好きである。

道で野良猫に遭遇すると、一定の距離を保ってこちらをじっと睨んでいる。
近づけば逃げるくせに、離れているとこちらをじっと見ている。
さらに離れたら、興味が無くなったと言わんばかりに、そそくさと立ち去ってしまう。
何だか分からんが、この距離感、緊張感がたまらない。

こちらを睨んでいる猫は、それなりに逡巡しているように見える。
目の前にいる人間が、危険な存在ならばすぐに逃げよう。でも、食べ物をくれる奴ならば、注意深く寄って行こう。どちらか分からないから、今は警戒しよう…。

なんてことを、猫は考えているのかもしれない。

また、猫の気ままさにも、魅力を感じる。

学生の頃、禅寺で縁側に座っていたら、一匹の白猫がどこからともなくやってきて、僕の膝の上に座った。そして、あろうことか、喉をゴロゴロ鳴らして眠り始めたのである。
僕の膝を寝床に選ぶとは勝手な奴だと思いながらも、あまり気持ち良さそうに寝るので、結構な時間を猫と日なたぼっこすることにした。
半刻余りして、目を覚ました猫は、スッとどこかへ行ってしまったが、また僕の傍へ戻ってきた。なんだ、また寝たいのかと思い、猫をつかまえようと手を伸ばすと、今度はぷいと顔を背けて僕の背後に回り、後ろ足で毛づくろいをし始めた。

何て気ままな奴なんだろう。
こいつは、誰の言いなりにもならず、思うがままに生きている。
と、少し感動したのを覚えている。

その後、僕が寺を去るまでの間、その白猫とは奇妙な関係が続いた。
白猫は、寺の飼い猫なので、ご飯をちゃんともらっている。
しかし、人間の飯時になると、どこからか忍び込んできて、オカズをさらおうとする。
もらおうとするのではなく、かすめ取ろうとする。
こいつ、飯時はいつもオカズを狙っているのである。
文字通り、「抜き足、差し足」で階段をこそこそ上ってきては、その度に和尚さんや僕に捕まえられて庭へ放たれる。
おかげで、寺での食事は猫がつきものというイメージが付いてしまった。

そんなこんなで、僕と白猫は、とても仲が良いような、そうでもないような、奇妙な関係になってしまったのだった。

どうも白猫とは、気が合うというか、波長が合うような気がした。
お互いに端から媚びる気はないし、自分の飯をやるつもりもない。
けど、眠りたければ膝を貸してやってもいい。
たまには、共にのんびりと時を過ごすのもいい。

少なくとも、そんな関係でいられた、あの白猫は好きだった。




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