マイナーエッセイ



 

バナナとゴリラの相関性





 

 

ボクは、バナナがそこそこ好きである。


カロリーが高いので、おやつには向かないが、


朝食には充分な役割を果たしてくれる。


朝起きて、牛乳をグビグビっとやりながら、


バナナをパクつくのは何とも健康的ですがすがしい。


 

そんなバナナに、ボクはヘンな固定観念を持っている。


「バナナと言えば、ゴリラ」


このフレーズが何故か頭から離れないのである。


バナナを見るだけで、ゴリラを連想してしまう。


さらに食べようものなら、ゴリラになりきって、


ウホッ、ウホホッ、


と、胸を叩く自分の姿まで想像してしまう。


逆に、ゴリラと聞いただけでもバナナを連想してしまう。


動物園でゴリラを拝見しようものなら、


もう、バナナを献上したくてたまらなくなるはずである。


それどころか、街中でゴリラに似た人に遭遇しただけでも、


「この人に、バナナをさしあげたい!」


という、衝動に悩まされるのである。(本当です)


それ程までに、ボクの中で、バナナとゴリラの結びつきは深い。


 


俗に、「ゴリラ顔」というのがある。


ゴリラに似てらっしゃる方のことである。


大変失礼なのは重々承知の上なのだが、


ゴリラ顔の人に遭遇すると、


反射的にその辺にバナナがないか探してしまう。


偶然、その近くに果物屋さんがあったりすると、


それはもう、タイヘンなことになるはずだが、


幸運にもまだそんなシチュエーションは経験していない。


と思っていたのだが、この稿を書いているうちに、


かつて、ボクの身に降りかかった或る災厄の発端が、


実は、ボクのこのヘンな性癖にあるということを、


今さらながら、確信してしまったのである。


 

 


あれは、小学六年生の頃……。


四月に転校してきたボクは、


怖いもの知らずのワルガキだった。


6月か7月ぐらいのことだったと思う。


前世の因果か、はたまた森羅万象が織りなす偶然か、


隣のクラスにゴリラ顔の少年を発見したのである。


ボクは、勝手に彼を「ゴリ」と呼ぶことにした。


それからというもの彼に会うたびに、


「よう、ゴリ!」


などと、嬉々としてゴリ呼ばわりしていたのである。


しかし、彼の方はひどく傷ついていた。


ボクは知らなかったのだが、彼は有名なガキ大将だった。


ケンカでは負け知らず、彼に歯向かう者などいなかった。


ところがである。


ワケのわからん転校生に、「ゴリ」呼ばわりされたのである。


しかも、ビビることもなく顔を合わすたびにである。


さらに、この転校生は、彼の誕生日の給食の時間に、


わざわざ隣のクラスまでやって来て、


給食に出たバナナをプレゼントしたのである。


ボクの方は、「ゴリラ顔に悪人はいない」とまで


思っていたぐらいだから、全く悪気はなかった。


だから、その時、彼の唇が屈辱でプルプルと小刻みに、


震えていたことに気づくよしもなかったのである。


 


そして、時は過ぎて中学生時代……。


彼は、巷で勢力を二分する不良グループのボスに成長していた。


彼は中2でグループのヘッドに就任するや否や、


気に入らない奴を片っ端からシメ上げるという暴挙に出た。


そのブラックリストの筆頭にあったのは、


あろうことか、ボクの名前だったのである。


シェー!!!!


な、なぜ、ボクが!


それからしばらくの間、ボクはコソコソと逃げ隠れしながら、


おっかなびっくりの学校生活を送っていたのだが、


そう、いつまでも逃げ切れるものではない。


或る日、とうとう放課後に一人で教室にいるところを、


彼に押さえられてしまった。


彼、曰く、


「おまえだけは、許せん!。」


何のことだかさっぱり解らないボクは、


「何でやねん!」


と、逆ギレ気味で訊いたのだが、


彼はそれに答えず、その代わり、こめかみに青筋を立たせた。


周囲をぐるりと見回すと、彼の手下どもが10人はいる。


やばい! フクロにされる!


奴らの手に掛かると、鼻骨骨折ぐらいは覚悟せねばならない。


絶体絶命のピンチだということを認識したボクは、


この急場を切り抜ける手段を思案しようとした。


ボクは、ピンチで頭が冷静になるタチなのだが、


この時ばかりは、有効な打開策が思い浮かばなかった。


どう考えても自力脱出は不可能に思えたのである。


結局、ボクは無駄だと思いつつも説得工作をすることにした。


「待ってくれ。ほんまに解らんねん。何で怒ってるのか。」


「お前に恨みがあるんじゃ。ゴリ呼ばわりしやがって。」


「そんな昔のこと……。ハッ、ひょっとして気にしてた?」


説得のつもりが、逆に彼の神経を逆撫でしてしまい、


ますます、ボクは窮地に追いやられてしまった。


そして、この時になって初めて、


過去のゴリ呼ばわりが、どれほど彼にとって屈辱だったのかを、


ボクは推して知ったのだった。


彼は、面と向かって悪口を言われたことがなかったらしい。


腕力にモノを言わせて周囲を従えてきたからである。


だから、はっきりずけずけと「ゴリ」なんて呼ばれた日にゃあ、


怒るよりも、まず面食らったらしいのである。


おだてられることに慣れていた彼は、


自分の顔がそれなりにカッコイイと思っていたらしく、


「ゴリ」という現実を突き付けられて、ショックを受けた。


で、ボクに毎日「ゴリ」と呼ぶのを許してしまった……。


あまつさえ、「誕生日にバナナ」という屈辱!!


 


 


それにしても、


そんなに、根に持っていたなんて!!


彼は2年近くも復讐の念を抱き続けていたことになる。


その頃は、ゴリ呼ばわりが災いを招いたことに気づいたものの、


「誕生日バナナ」のことはすっかり忘れていて、


バナナも一役買っていたという認識はなかった。


して、この稿を起こしている今現在、思い至ったのである。


バナナとゴリラの相関性、恐るべし。


ということに。


 


あのピンチはその後どうなったかと言うと、


最高のタイミングで通りすがりの教師によって救われたのである。


しかし、その先の身の安全を自力で守れないと判断し、


小ズル賢くも「蛇の道はヘビ」ということで、


当時、彼と敵対していたもう一つの勢力の傘下に入ったのである。


そこのボスと仲良くなり、虎の威を借ることに成功したのだが、


「ゴリ呼ばわり」の勇気(?)が認められたのか、


なんと、いきなり幹部っぽい待遇だったのである。


そのボスをボクは「ショウちゃん」と呼び、


タメ口をききあう仲になり、音楽の趣味が合ったことも幸いし、


学校の内外で伴に行動することが増えた。


その後、ボクは参謀的なポジションに落ち着き、


ウカツに手を出されにくい存在になったものの、


グループを巻き込んだゴリとボクとの確執は、


その後、少なくとも数年間は消えなかったのである。


 


身から出たサビとは言え、


やはり、バナナとゴリラの相関性、恐るべし。


である。




 


End

 

 



執筆: 2000/08/11





  

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